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「夏休み終わってほしくないです」
「分かる。まじであっという間だった」
もうほぼ日課となった優太さんとの電話のひととき。
毎日時間の流れが早すぎて追いつけない。
置いてきぼりのはずなのに気づいたら次の日になっているからそこに多少の恐怖を感じる。
「やだなぁ」
「なに、明日一限から？」
「違いますよ。ただなんとなく気が重いなーって」
長期休暇に慣れてしまったことが原因の怠さもあると思う。
「紫耀と会うのが怖い？」
「え…？」
優太さんの口から彼の名前が出てくるのはいつぶり？
私が意識的に彼の名を言わないようにしていたのがきっと優太さんにも伝わっていて気を遣ってくれていたんだと思う。
「違う？」
「…違いますよ。怖くなんかないです。だってもう2ヶ月くらい経つんですもん」
「そっか…。でも無理はすんなよ。辛くなったら俺に言うんだぞ」
「はい」
嘘をついてしまった。
本当は少しだけ怖い。怖いっていうか不安。
久しぶりに彼の顔を見たら、彼の声を聴いたら、すれ違いざまに彼の匂いを感じたら
私だけあの頃に引きずり戻されてしまう気がして。もう紫耀は、私のことなんか気にしてないはずなのに。
関係を絶ち切ったあの日から、今が夏休みでよかったって何度も思った。
夏が終わらなければいいと思っていたのに、紫耀と会わない夏は悔しいくらいにあっという間に過ぎていった。
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後期が始まって早々、のんびりしすぎたせいで遅刻ギリギリで大学に着いた。
「すいません乗ります！」
流石に5階まで階段で上がるほどの元気はなくて小走りでエレベーターに乗り込んだ。
ふぅ、と息をついて
先に乗っていた人にお礼を言おうとした。
「ありが…、」
顔を見て驚いた。なんで気づかなかったんだろう。
紫耀だった。
紫耀も私を見て固まっている。
「…あ、ありがとう」
目を逸らした私は小さな声しか出せなかった。
「ん」
同じ所に通っているんだからこういうことが起きてもおかしくはないけど、さっきからバクバクと大きく心臓が動いて止まらない。
「降りたら？」
紫耀に言われるまで扉が開いていたことにも気づかなかった。
「うん…」
私は早歩きで講義室へと向かった。
感じ悪い。って思われたかな。
紫耀を認識した瞬間、軽く頭の中が真っ白になってどうしたらいいか分からなくなった。
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作者名：來
| 作成日時：2020年12月13日 19時
