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「平野に、Aには内緒にしろって言われてたんだけど…」
「紫耀に？」
「俺が関わったらAが…悲しむからって」
私に気を遣ったってこと？
「これも、平野のがAのために買ったの。嘘ついてごめんね…」
「そんな…なんでよ…」
私は指でそのココアのペットボトルに触れた。
“Aまたそれ飲んでるの？”
“ココアはね、これが一番好きなの。甘さがちょうどいいの”
“へぇそうなの？”
いつだったか紫耀とそんなやり取りをしていた。
そういえば1年くらい前にも私にこれをくれたんだよね。私の体を心配してくれて。
紫耀、覚えてたの？
「ほんとにAのこと心配してた。あんな平野見たことなかった」
なんて返したらいいのか分からないけど、ただその事実のせいで視界が歪んだ。
「Aのこと苦しめたくせになんで優しくするんだろうね、」
「紫耀はね…ずっと、優しい人だったよ」
なんでいっぱい思い出しちゃうかな。
紫耀に優しくされる度に、勘違いしそうになってあるはずのない望みを探していた。
それはもう過去のことのはずなのに、また私…期待しちゃった。
もう優太さんのことしか考えたくないのに。
「結構平野ってさ、Aを大事に思ってたのかもね…」
「そんなことないよ…」
紫耀がなんで私に対して優しくしてくれるのか分からない。
その優しさを否定しようとする私もなに？
もうすっかり冷めてしまったペットボトルを両手に収めて胸の前にも持ってきた。
冷めているはずなのに温かさを感じるのはどうして？
ポタポタと雫のように涙が流れ落ちていく。
紫耀のことで泣くのはいつぶりかな。
「ごめんA。私が言わなきゃよかった」
「ううん。言ってくれてありがとう…」
泣いてしまったのは悲しいからじゃない。
嬉しいって思っちゃった。
知りたくなかったけど、知れてよかったって思う自分もいるの。
あれからずっと紫耀への気持ちを消そうと努力していたのにそれが全部無駄になってしまう気がした。そんなの、嫌だ。
心がぐちゃぐちゃで全く整理がつかない。
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「どう？大丈夫？」
授業を終えた優太さんが来てくれた。楓からはどこまで聞いたのだろうか。
「大丈夫ですよ」
優太さんの目をちゃんと見ることができないくせに今すぐ抱きしめてほしいと思ってしまった。
上書きしてほしいって。
もちろんそんな図々しいことを言う勇気はなかった。
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作者名：來
| 作成日時：2020年12月13日 19時
