155 ページ12
*
「ちょっと私お手洗い行ってくる…」
「分かった」
成海が保健室から出て行ってから、近くにあった椅子に腰かければほんの少しだけではあるけどAと物理的に距離が近くなった。
講義の途中、突然Aと成海が席を立ってあの場から抜け出したのを見ていた。
見ていたというか、席的に見えてしまった。
そのときに一瞬だけ見えたAの顔色が悪くて体調が良くないんだってすぐに分かった。
俺は咄嗟にシャーペンを置いて、体を扉の方へと向けていた。
今俺が二人に着いていってどうするんだって思ったけど、ただただAのことが気がかりで
迷った結果俺も席を立っていた。
少し歩いていると、バタッと嫌な音が聞こえてきた。
急いで足を進めるとAが成海の横で倒れていた。
「A…！」
駆け寄ると成海が俺を見て驚いていた。
心臓がバクバクと大きく動いている中、俺はAを抱きかかえていた。
元々小柄な子だったけど、久しぶりだからか前よりも小さく思えた。
Aを保健室に運んだらそのまま授業に戻ろうと思っていたけどできなかった。
もう少しでいいからこの子のすぐ側にいたかった。
そのことを伝えて、成海が微妙な反応をしたのはすぐに分かった。
無理もない。だって俺は成海にとって大事な友だちを傷つけた張本人なんだから。
それでも成海がなんとか許可を出してくれたおかげでここに居られる。
女の子の日だって成海が言っていた。あと多分貧血気味だって。
今はスヤスヤと眠ってはいるけど相当辛いはずだ。それなのに代わってあげられないのが悔しい。
何もしないって成海には言ったけどいつの間にかAの手を握っていた。
2ヶ月ぶりに感じるAの肌の質感に愛しさが募る。それと同時に冷たいこの手を温めてあげたくなった。
そうしていたのはたった5分程度のことのはずなのにすごく長く感じた。
やっぱり好きだよ。Aのこと。
後悔しかしてない。
本当は今すぐここから連れ去りたい。誰にも触れさせたくない、渡したくない。
何度もそう思った。
成海が戻ってくる前に渋々手を離した。
それでも俺の手はまだAのことを覚えている。
*
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1863人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：來
| 作成日時：2020年12月13日 19時
