六月。 ページ18
雨の音と雨の匂いが、段々と強くなってくる。
好きな、匂いと音のはずなのにこころの胸を締め付けるなにかがあった。
四月の最初――、まだこころが学校に行けていた頃。今朝に、雨が降っていたから登校中に着ていた学校指定のレインコートを、帰るときになって晴れた空の下で一回大きく広げたとき。
ふんわり、とこころの好きな匂いが鼻をくすぐったものだから何も深く考えずに
「雨の匂いがする」
と一緒に登下校していた友達に告げた。
その次に、朝に雨が降った日の帰り、自転車置き場に向かったこころの耳に
「あめのにおいがするぅ」
と真田さんの声が突き刺さるように入ってきた。声の方向を向けば、真田さんとその取り巻きの人達がこころの方を見て、レインコートを触りながらニヤニヤと笑いながら言い合っていた。
それを見て、こころは呆然として動けなくなってしまった。
あのとき、どこかでこころのことを見ていたのだろう。
雨を、好きでもいいのかもしれない。
だけど、学校という場所はそんなことを正直に言ってはいけないところなんだとこころは絶望的に感じた。
お母さんが作ってくれたお弁当と水筒をトートバッグの中に入れて、肩から提げる。
光を放つ鏡の前に、着替えて、顔を洗って、立つ。
城に行くのをやめていたのは自分のくせに、今更、もし、誰かが鍵を見つけてしまったらどうしよう、と不安になる。
どうかまだ、誰も鍵を見つけていませんように、と祈る。
こころには、叶えたい願いが一つだけ、あった。
『――真田美織が、この世から消えますように。』
雨の匂いを笑ったあの人が、こころの居場所を奪ったあの人が、こころの前に最初に存在しなかったことになったらどれだけ楽だろう。
そんな、願いに背中を押されるようにして、こころは両手を鏡の表面につけ、城への入口をぐん、と押し開いた。
続く
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怜(プロフ) - トロイカさん» 本当ですね！？気づくの遅れてすみません…修正しました！ (4月4日 20時) (
レス) id: b646ea4538 (このIDを非表示/違反報告)
トロイカ(プロフ) - 全部で8人では？ (2月14日 21時) (レス) @page11 id: ccf39fbb9a (このIDを非表示/違反報告)
7Tw2ErnmNI22864(プロフ) - ちょうど昨日金ローの録画をみて、こういうの読みたいなあって思ってました！つぎのお話も楽しみにしてます！！🙏🙏 (2月14日 20時) (レス) id: 28c0945122 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：怜 | 作成日時：2024年2月9日 21時
