六月。 ページ17
五月が終わって、やってきた六月。
今日もまたスクールに行きたくない、と告げたこころにお母さんは声を荒げたりはしなかった。
「そう、お腹が痛いのね」
こころを見ずに冷たい声でそう告げたお母さんに、こころは本当なんだよ、と前も思った言葉が口から出そうになったけど抑えて、自分の部屋に戻った。
ガチャリ、バタン。
一回から玄関を閉める音がして、窓から外を見ればお母さんがスーツに身を包んで仕事に行くところだった。
しばらくボーッとテレビを眺めていると、パラパラと雨が窓を打つ音が聞こえた。
雨の匂い、とこころは思う。
皆はそこまで好きじゃないかもしれないけれど、水と埃が混じった匂いなのだと何処かで聞いたことがあるけれど。
こころは、好きな匂い。
すん、と鼻を鳴らして大きく息を吸い込むと明かりをつけていない仄暗い部屋が、少しだけ、明るくなった
鏡だ。
五月の終わりのあの日から、毎日こうだ。
鏡が光って、城への道が開かれて、その光がこころをおいでおいでと誘っている。
でも
こころはあの日から一度も、城に行けていないままだった。
光る鏡を前にして少し、躊躇してしまうのだ。
行ってみようかな、と思って足がすくむ。そして五時になって、城へ行く道が絶たれて鏡が光を失った途端にホッとする。
あの時来ていたあの子達はまた、城に集まっていたりするのだろうか。そこでもう、輪ができていたりするのだろうか。
だとしたら、こころは今更入れない。挨拶した中の数人とは仲良く、友達になれそうな気がしていたけれど一日いかなかったらその分だけあそこに行ける気がどんどん削られて、気持ちが挫けてしまう。
これでは学校に行けないのと一緒だ。――お母さんの勧めるスクールに行けない気持ちとも、似ている。
でもあの、心地いい、海外の童話に出てきそうなお城で過ごすのはなんとも魅力的だった。
そしてあの中の誰もが自分たちが学校に行っていないということを言い出さないのも心地が良かった。
そのことが楽で、でもゆるやかに苦しく、胸を締め付けるような思いがするのもまた、事実だった。
――立場が同じあの子達とだからこそ、本当は、されたことも、今の気持ちも何でも話せるような気がしているのに、そうする機会を自分から閉ざしているようで少し、息苦しい。
そして、あったばかりなのに妙な親近感をこころはあの子達に覚えていた。
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怜(プロフ) - トロイカさん» 本当ですね！？気づくの遅れてすみません…修正しました！ (4月4日 20時) (
レス) id: b646ea4538 (このIDを非表示/違反報告)
トロイカ(プロフ) - 全部で8人では？ (2月14日 21時) (レス) @page11 id: ccf39fbb9a (このIDを非表示/違反報告)
7Tw2ErnmNI22864(プロフ) - ちょうど昨日金ローの録画をみて、こういうの読みたいなあって思ってました！つぎのお話も楽しみにしてます！！🙏🙏 (2月14日 20時) (レス) id: 28c0945122 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：怜 | 作成日時：2024年2月9日 21時
