検索窓
今日:11 hit、昨日:0 hit、合計:1,787 hit

其の七 ページ8

敦「変?何がですか?!」

Aの言葉に噛みつくように敦は反応を見せる。
その様子に太宰は小さく溜息を吐いて本を閉じた。

『普通、経営が傾いたからって孤児院や養護施設が児童を追放する?大昔の農村じゃああるまいし』

熱くなる敦とは正反対に太宰とAは冷静な様子だ。

太宰「抑々ね、経営が傾いたんなら一人二人追放したところで何が変わるんだい?半分くらい他所の施設に移動させるのが賢明で普通の判断だろう」

敦「二人共、何を云って…?」

全く意味がわからないといった表情をする敦に、Aが立ち上がって近付く。
そうすると月の光がAという当たり場を失い、敦が月の光を受ける。
その眩しさに敦が月を見上げると、そのまま動きが止まる。

『君が孤児院を追い出されたのは二週間前。虎がこの辺りで目撃されるようになったのも二週間前。』

じっと敦を見つめてAは続けた。

太宰「そして君が鶴見川にいたのが四日前。そして其の日、虎が同じ所で目撃された。」

いつの間にか敦の直ぐ側に太宰も近づいていたが、敦は気づくことなく月を見上げている。

太宰「国木田くんが云っていただろう、武装探偵社は異能の力を持つ輩の寄合だって。巷間にはあまり知られていないけれどね、この世には少なからず異能の者が存在する。」

敦は息が荒くなり、心做しか先程より目が吊り上がっているように見える。

太宰「その力で成功するものもいれば――」

太宰「力を制御できず、身を滅ぼす者も居る。」

大きな影が太宰とAの姿を月から隠す。

『…優しさか、世間に出るのを恐れたか…。施設の人間は敦くんにだけ虎の正体を教えなかった。』

太宰「君だけが解っていなかったんだよ。」

太宰は敦を見ていた顔をゆっくりと上げる。背丈の高い太宰でも見上げればならぬほど敦は大きく、白虎へと姿を変えていた。

太宰「君も“異能の者”だ。現身に飢獣を降ろす月下の能力者――。」

『人喰い虎は、君だったんだよ。敦くん』

グルルル、と如何にも獣らしく喉を鳴らし毛を逆立てる、美しく艶のある白毛の虎がAと太宰の眼の前に立ちはだかる。

その見た目には人の姿だったときの敦とは思えないほど覇気と、野性味を感じさせる。

太宰「…こりゃあ立派な虎だね」

グオオオオオ!

美しき満月の夜に虎の遠吠えが倉庫からこだました。

其の八→←其の六



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.7/10 (10 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
12人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名: | 作成日時:2023年11月2日 16時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。