其の七 ページ8
敦「変?何がですか?!」
Aの言葉に噛みつくように敦は反応を見せる。
その様子に太宰は小さく溜息を吐いて本を閉じた。
『普通、経営が傾いたからって孤児院や養護施設が児童を追放する?大昔の農村じゃああるまいし』
熱くなる敦とは正反対に太宰とAは冷静な様子だ。
太宰「抑々ね、経営が傾いたんなら一人二人追放したところで何が変わるんだい?半分くらい他所の施設に移動させるのが賢明で普通の判断だろう」
敦「二人共、何を云って…?」
全く意味がわからないといった表情をする敦に、Aが立ち上がって近付く。
そうすると月の光がAという当たり場を失い、敦が月の光を受ける。
その眩しさに敦が月を見上げると、そのまま動きが止まる。
『君が孤児院を追い出されたのは二週間前。虎がこの辺りで目撃されるようになったのも二週間前。』
じっと敦を見つめてAは続けた。
太宰「そして君が鶴見川にいたのが四日前。そして其の日、虎が同じ所で目撃された。」
いつの間にか敦の直ぐ側に太宰も近づいていたが、敦は気づくことなく月を見上げている。
太宰「国木田くんが云っていただろう、武装探偵社は異能の力を持つ輩の寄合だって。巷間にはあまり知られていないけれどね、この世には少なからず異能の者が存在する。」
敦は息が荒くなり、心做しか先程より目が吊り上がっているように見える。
太宰「その力で成功するものもいれば――」
太宰「力を制御できず、身を滅ぼす者も居る。」
大きな影が太宰とAの姿を月から隠す。
『…優しさか、世間に出るのを恐れたか…。施設の人間は敦くんにだけ虎の正体を教えなかった。』
太宰「君だけが解っていなかったんだよ。」
太宰は敦を見ていた顔をゆっくりと上げる。背丈の高い太宰でも見上げればならぬほど敦は大きく、白虎へと姿を変えていた。
太宰「君も“異能の者”だ。現身に飢獣を降ろす月下の能力者――。」
『人喰い虎は、君だったんだよ。敦くん』
グルルル、と如何にも獣らしく喉を鳴らし毛を逆立てる、美しく艶のある白毛の虎がAと太宰の眼の前に立ちはだかる。
その見た目には人の姿だったときの敦とは思えないほど覇気と、野性味を感じさせる。
太宰「…こりゃあ立派な虎だね」
グオオオオオ!
美しき満月の夜に虎の遠吠えが倉庫からこだました。
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作者名:怜 | 作成日時:2023年11月2日 16時