其の五 ページ6
『国木田さん。落ち着いてください、茶屋の御客と給仕さんの迷惑ですから。』
とん、とAが国木田の肩を叩いて周りにすみません、と軽く頭を下げる。
いつの間にか国木田と敦の騒動で賑やかだった店内はしんと静まり返り、人々の目は二人に向けられていたらしい。
国木田「……」
其の姿をみて国木田は少し気不味げに腕を離した。
太宰「全くだよ、何時も社長に云われているじゃあないか「君がやると情報収集が尋問になる」って」
国木田「…ふん」
ゆっくりと起き上がる敦に手を差し伸べつつ、太宰は敦に話を促す。
太宰「それで？」
敦「……うちの孤児院はあの虎にぶっ壊されたんです」
***
敦の話が一通り終わると一同は神妙な面持ちでしばし沈黙が降りる。
太宰「…そりゃあ最難な話だったね」
『それで、気になったんだけど。虎に"殺されかけた"ってのは一体？』
敦「……彼奴、孤児院で大根でも貪っていればいいのに此処まで僕を追いかけてきたんです！」
敦の怒りと不安が混ざった瞳を見つつAは尚も問う
『詳しく訊いても？』
敦「孤児院をでて鶴見川辺りをフラフラ歩いていた時…ふと見たら僕の後ろに奴が…彼奴はきっと僕を追いかけて街まで降りてきたんです！」
その時の恐怖を思い出したのか、ぐっと体に力が入る敦。
敦「もう、空腹と疲れで頭は朦朧としていたし、何処をどう逃げたのか…」
『…其れ、いつ頃とか覚えてたりする？』
Aの質問に一瞬間を置いて敦は静かに答えた
敦「…院を出たのは二週間前。鶴見川に居たのは慥か…四日前」
太宰「…ふむ。国木田くん」
国木田「嗚呼。虎の被害は二週間前から此方の方面に集中しているな、其れに確かに四日前鶴見川付近で虎の目撃情報があった。」
『へぇ。面白いほどに情報が一致してるね。本気で虎は敦くんを狙ってるような感じ。果たしてタイミングが悪いのか、本当に虎が自我を持ち狙っているか…』
考え込むようにAが顎に指をかける。
太宰「……ねぇ、敦くんこのあと暇？」
にっこりと人当たりの良さそうな笑みを浮かべて太宰が話しかけると敦の顔が引き攣り、血の気が引く。
敦「…も、猛烈に嫌な予感がするのですが……？」
太宰「君が「人喰い虎」に狙われてるなら好都合だよねぇ。」
にこにこと笑いながら太宰は続ける
太宰「虎探し、手伝ってくれないかい？」
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作者名：怜 | 作成日時：2023年11月2日 16時
