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其の二 ページ17

『っは、!…は…はぁ……』

息を荒くして、Aは寝台から飛び起きた。体は冷や汗にぬれている。

思わず首元に手を伸ばす。怖くなるくらい現実的な悪夢でAはその場で蹲る。

『…久し振りに、見たなぁ…』

自嘲的に笑みを浮かべてAは深く息を吐く。

少し落ち着いて顔を上げれば寝台の棚に置かれた写真立てが目に入り、また息が詰まる。

其れには幼いAと先ほど夢に出てきた白髪の男性、そしてAの片割れ――織鈴が笑顔で写っている。

『……ちがうよ………』

言い訳を云うように写真から目を逸らしてAは呟く。

『…違うんだ…』

笑った織鈴の金銀妖瞳がうっすらとつり上がって潤んだように見えて思わずAは写真立てを伏せた。

生々しい手の感覚が未だ首に残って、怖さと自責で泣き叫びたい衝動にかられて口を覆えば

prrrrrrrr

携帯端末が着信を告げる。液晶画面には「太宰」の文字。

『……もしもし』

太宰[お早う、Aちゃ――如何したんだい?些か元気がない声だね]

電話に出たAの声に違和感を感じた太宰が心配そうに尋ねる。

太宰[矢張り、敦くんの入社にAちゃんは反対だったかい?]

『違います…。只、久し振りにあれを見ただけです。』

見えないながらも首を振りながら答えたA。表情は先程より幾分か優れ、何時のAに戻りつつあったがそれとは裏腹に今度は太宰の声が沈んだ。

太宰[…そうかい。随分ご無沙汰な夢だったね。……今日は何か悪いことが起こりそうな予感がするねぇ]

『さぁ…如何してそんなことを?』

太宰[だってAちゃんが其れを見た時何時だって厭な事が起こったじゃあないか。今日もまた其れに則ってるんじゃないかな]

『ただの、偶然ですよ。』

認めたくない、というようにAは声を絞り出した。汗が蒸発して少し肌寒いような感覚に襲われる。

太宰[何度も云うようだけれど、君に非は無いか]

太宰の言葉が続く中、Aは通話を切った。

『そんなこと、ない…。』

'約束なんて守られないじゃない'頭の中に声が響く。

『守られてるよ。…この夢を見たら必ず厭な事が起こる約束が。』

'許さない'また、声が響く。

『許されるなんて、許してもらえるなんて思ってないよ、思えないよ』

『ごめん、ごめんなさい』

蹲ってか細い声で嗚咽しつつ謝罪する。生暖かい風がAの部屋を通り抜けていく。

厭な予感を体現するような嫌な風だった。

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作者名: | 作成日時:2023年11月2日 16時

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