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羽が16枚 ページ20

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まるで何事も無かったかのように、Aは体育館に戻る。相変わらず、扉は固く閉ざされていた。

最後に体育館に入ったのは縁下だろうか。心の中で彼に悪態をつきながらボトルの入って重くなった籠を置いた。

入ったらまずは…と思考を巡らせていると、ふとタオルの存在を思い出した。籠の中にタオルはない。汗をかいた彼らにとって、タオルは必需品だ。籠は置いたまま、部室の方へ歩いていった。

Aは彼らの練習スケジュールなんて知らない。
遅くなっても初めてだからまぁ許されるだろう。2年生は皆やさしそうだった。しかし、澤村先輩は怒らせてはいけない気がしたが。

そもそも、Aはバレー部(あいつら)の為に走りたくなかった。部室に入ってタオルを8枚手に取り、部室を出て体育館に向かう。

まさか往復する羽目になるとは思ってもいなかったAは、体育館に着くと、面倒くさくなって、さっきみたいにノックせずに入った。するとちょうど、澤村が休憩の指示を出した。

澤村先輩、ナイスタイミング!、なんて、言わないけど、普通の人だったら言いたくなるくらい、ジャストのタイミングで指示を出す。なんてバットタイミングなのか。Aは手渡ししたくないのに。

「ん?片桐さん、スポドリ作ってきてくれたのか!?」

「お〜!感謝だぜ!ありがとな!」

目をキラキラと輝かせながら感謝を述べる田中と西谷。残念ながら、Aはバレー馬鹿に何を言われても嬉しくない。

さすがに渡しにいかないと後々うるさいと、彼女の勘と本能が言う。なぜかマネージャーの手渡しが当たり前みたいな空気になっていたからだ。もう手遅れかと、心の中で大きなため息をつくと、スポドリとタオルを手にとって、いつもの低めのテンションと無表情を崩さずに1人ずつ渡す。

自分で取りに来てよ。面倒くさいから。「ありがとう」とか言われても嬉しくない。で?何が?と思ってしまう。Aは嫌で嫌で仕方なかった。

「片桐さん!こっちにもくれ〜!」

彼女は口に出して嫌、とは言えず、西谷に渡しに行く。心の中ではもちろん、自分で取りに来てよ。と思っていた。ここからぶん投げてやろうか、とも。顔には出さない。無表情もだいぶ上手くなった。気を抜かない限り素はでない。心の中の悪態に、誰も気がつかない。

きっとこの部活の仲は凄く良いのだろう。そんなところに私は要らない。

私みたいな、不純物は。

私みたいな、汚物は。

Aはそう思い、強く歯を噛み締めた。

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作者名:七瀬月華 | 作成日時:2021年7月29日 15時

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