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呪文82 ページ35

緊張と、それによる乱れた呼吸が
こちらまで伝わってくる。

塔の上。

狙撃担当の二人と共に、
下の景色を眺めていた。

与一は深夜に助けられながら、

第十五位始祖ルカル・ウェスカーを

照準に捉える。

私はといえば。

空気を媒体にするかのごとく、

広範囲に幻術を染み込ませる。

上手く効けば、ルカルを取り巻く景色は

ぐにゃりと歪むはずだ。


静かに、ただ静かに。

互いの命をかけた戦いは始まりを告げる。

ルカルの命目掛けて、攻撃が放たれた。


与一「うわわ、失敗し……」

まぁ、さすがに。

狙撃で、初手で殺せるほど簡単な相手では

ないことは判っていたことだ。

驚きはしない。

深夜「よけろ!!」

反作用のように返ってきた攻撃が、

背後の塔を砕く。

そしてその攻撃は、塔こそ砕けど

私たちには掠りもしない。

どうやら幻術は届いたようだ。

深夜「場所を移動するぞ」

与一「はい!!」

下にいた人間たちが飛び出していく。

上にいた二人も、一般吸血鬼を粗方片付けて

降りていく。

早々に、私は一人になった。

それは別に悪くない。

むしろ良い。

一応、と戦場に目を向けながらも

意識は完全に彼らの方を向いていなかった。




A『うん。そう、あと少しですか』

魔女は嬉しそうにホバリングをする

目白に応える。

こんな簡単に、彼らから逃れるこの機会を

彼女は見逃す。

ある存在を待つ。

私を魔女の元へ導いてくれる存在を。

何年も姿を現さなかった私を、

未だ待っていてくれて。

ずっとずっと、待っていて。

そして今日、喜んで迎えに来てくれる存在を。



もはや環境音と化していた

人間と吸血鬼が交わる音が唐突に消える。

あまりに平和ボケしたような

風と、話し声と、そして鳥の声。

違和感に逸らしていた意識を、目線を

下へ落とした。

左手を失った貴族と対峙するは

綺麗な陣形を保ったまま動かない人間。

君月「お……血鬼、こ……な…………う?」

流石に距離が離れすぎていて、

何を話しているかは聞こえない。

ただ、声は聞こえる。

自信げに、強気に。粋がる人間の声が。

そろそろ、何か手伝うべきか。

流石にサボり過ぎか。

また、怒られちゃうかな。


A『カプノス許可故、
  エクスプローション』

握った両手を緩く開けば、

隣で物珍しそうに疑問符を浮かべる目白を

模した呪符が羽ばたいて

空気を縫うように吸血鬼の目の前へ。

自ら檻へ飛び込むように。

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cocolove420(プロフ) - 面白いお話で続きが気になります!これからも頑張って下さい!応援しています! (2017年9月30日 15時) (レス) id: 66c6f3f00c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:アルカーヌ | 作成日時:2017年4月5日 13時

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