雪降る夜【2】 (ページ21)

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呪文68 ページ21

分からなかった。

何を考えていたのかは、答えてはくれなかった。

何を調べていたのかも、言ってはくれなかった。

ただ、結果だけは、教えてくれた。

分からなかった。

まとめるとそういうことだった。

まず、彼女は極端に鬼に嫌われていると考えられていたが、

それはどうやら違うらしい。

嫌っているのは彼女の方だそう。

それは分かった。でも何故かは分からなかった。

もともと、人間が体に鬼を宿すなんていうのがおかしいのだから

そういう人も当然いる。

しかしグレンはそこに着目した。

深夜にはそれがまた分からない。

確かにあの嫌いようは異常かもしれないが、本来はそれが正しいとすら思っているから。

次に、何も分からなかった。

無尽蔵な体力も、ヨハネの四騎士に狙われにくい理由も、

吸血鬼の都市で一人黒い服を着ていた理由も。

何度も述べた通り、つまりは何も分からなかった訳だ。

普通、それが当たり前。

それは個性だから、分からなくて普通。

なのにグレンはそんなことを調べた。

普通過ぎる結果が、なぜか不安をあおる。

満月の裏を、見たいと思った。

￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣

怪我してばかりだ。

今更、と言いたくなるその事実を、Aは考えはじめた。

痛いとこばかりだ。

隠しておいた魔導書を開いた。

魔女は、基本的穏やかで、あまり殺し合いをする種族ではない。

そのため、体が弱い。

そんなのは、分かっている。

その欠点を補うために、魔術を使う。

そんな魔女が、魔術を封じられて殺し合いをしたらどうなるか。

当然、こうなる。

伸びをしただけで肩が痛むし、あまり勢いよく息を吸い込むと肺が軋む。

食欲もなければ、疲れもとれない。

この状態で、次吸血鬼と相対するのは自殺行為だ。

このまま上手く人間を捨てられる気がしない。

ぱち、と一度だけ、炎が弾ける音。

周囲を確認するためだけにかけた神懸かり法が、イヤリングのように耳で輝く。

誰もいない。

皆きっと、学校かどこかに行っているのだろう。

自室で休んでるのは私だけ。

今日は天気が良い。無駄な、快晴だ。

その眩しさに目を、体を背け、窓に背中を向ける。

強くならなければ。

生き残るために。生き残ったから。生き残ってしまったから。

生き残れ。

…なぜ？

温厚過ぎる魔女。種が殺されたと言っても過言ではない相手への、復讐の思いは見当たらない。