雪降る夜【2】 (ページ17)

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呪文64 ページ17

深夜少将が息を飲む音が聞こえた。

次の瞬間、左肩の辺りに激痛が走った。

しかし声が出ない。肺が負傷していて、叫ぶための空気を吸えない。

一拍遅れて、肩に暮人の刀が、もう片方の手は私の胸倉を掴んでいることに気付く。

金が苦痛に歪んだ。

暮人「これは試験だ。お前が吸血鬼のスパイか確かめるための。」

痛みに耐えるように結ばれた唇の辺りをじっと見つめた後、

暮人は傷口を同様に見つめる。

暮人「…少なくとも、吸血鬼ではなさそうだな。」

一人納得したように呟く。

しかしこの状態のまま、再び暮人が口を開く。

暮人「だがお前は不審な点が多い。

　何故ヨハネの四騎士に狙われない？

　何故吸血鬼の都市からグレンに救われたとき、お前だけ黒い服を着ていた？

　黒い服の子供は、お前以外報告されていない。

　何故お前は鬼呪を扱えない？報告書を読んでいる限り、黒鬼の、

　それも上位のものを扱えるはずだ」

魔女だから。

それらの理由は全て、それだ。

君達人間が存在を認めなかった、魔女の、生き残りだからだ。

何も言わない私を見て、

らいめいき

と暮人が唇を動かしたのが見えた。

深夜「兄さんっ！！」

見ていられなくなった深夜が叫ぶ。

しかし私はそんなことを気にしていられない。

鬼呪が、傷口から直接体内へ入ってきたのだ。

黒鬼すらも制御する強力な鬼呪が、魔女の体内へ入る。

暮人「もしお前が、吸血鬼なら全て説明がつく。

　そして今、お前が灰のように消滅すれば、お前が吸血鬼だということだ」

暮人が何か言っている。

それどころじゃない。

今まで微動だにしなかった瞳が大きく揺れる。

簡単な対鬼呪の術式なんて、いとも簡単に崩れ落ちる。

私の中の魔力が奔流して、鬼呪に抵抗し始める。

人間の目からは全くわからないだろうが、とてもひどい状態だった。

体の中がぐちゃぐちゃになる。

魔力が収まらない。

鬼呪が体内から出ていかない。

やはり消えないか、と呟いた気がする暮人が刀を抜き、掴んでいた手を離す。

動脈が切れたのか、血が溢れる。

全く止まる気配なく溢れ続ける。

暮人の手が離れたことにより、私はがく、と膝をつき、そのまま地面に引き付けられる。

しかし倒れる寸前に深夜少将が受け止める。

止まらない血が、彼の軍服を赤く染め上げる。

深夜少将と暮人中将が何か言い合っているようだったが、

私の耳には全く入らなかった。