雪降る夜【2】 (ページ13)

今日:8 hit、昨日:0 hit、合計:13,942 hit

呪文60 ページ13

翌日。

浅い眠りを繰り返していた私は、静かに扉が開く音ですぐに目が覚める。

約束通り珈琲を二つ手に持って笑う深夜少将。

A『…質問。私は何日、寝ていましたか？』

湯気のたつカップを受け取りながら、少しだけ声を出す。

胸が痛むから大きく息を吸えない。

深夜「そうだね～。…一週間くらいかなぁ」

そう言って少将はカップに口をつけた。

一週間。

一週間か。と手に持ったカップの中身を見つめながら思う。

治癒の魔術でも覚えようかな。

ふーっと湯気を払って私も口をつける。

甘い珈琲が一週間何も口にしていなかった身体に染みる。

深夜「まぁ、あの内臓ズタズタの状態から、一週間で回復ってすごいよね」

独り言のように彼が呟く。

少し経って、再び扉が開く。

入ってきたのはグレンだ。

手錠が繋がれているというのに、余裕綽々で珈琲を飲む私と、

へらりと笑った深夜少将を見て、

片手で顔を覆って嘆息する。

しかしその奥で、グレンが笑っていることに気付いて、私は目を細める。

その小さな私の仕草を見た深夜少将が、

深夜「照れ隠しだよ」

A『理解』

グレン「あ？」

深夜、A「いえ、何も」

軽くコントのような流れになったが、

これを見て二人は私が元気だと感じとる。

深夜少将の言い回しで、グレンが私を心配していたことを知る。

悪意だけでこうしたわけではないと知る。

A『…文句、グレン』

グレンがこちらに目線を向けたと同時に、私は軽く手を動かして

ガシャリと手錠を鳴らして見せる。

A『外してください』

ああ、と思い出したようにグレンはポケットから小さな鍵を取り出して、

手錠の小さな穴に差し込む。

カチャリと定番のような音は、しなかったが。

小さく音を立てて、手を拘束していた錠が外れる。

その自由になった腕で、離れていくグレンを問いただそうと、

彼の服を掴みかけて、その手を引っ込める。

それに気付いたグレンが眉を潜めて、振り返る。

グレン「何故聞かない？」

私の思考を見透かしたように聞く。

ぶらりとベッドから投げ出した脚を少しだけ振って、

首をすこし傾ける。

A『…知らぬが仏…？』

なんで疑問形？と少将からツッコミが飛ぶ。

私は立ち上がろうとベッドを下りる。

しかし貧血のようで。力が上手く入らなかったようで。

微かによろめいた。