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呪文58 ページ11

ぼんやりと閉じていた瞳を開く。

寝覚めの悪い私のわりに、再び睡魔が襲うことはなかった。


見慣れない天井。

暗い部屋。

微かに不安を覚え、瞬く。

感覚の薄い身体を起こす。

すると、ジャリ、と金属が擦れる音。ギンッと片手が引っ張られた。

その片手に視線を落として、ぞくりと背中に何かが通った。

私が寝ていたベッドに、頑丈な手錠が、私の片手をつないでいる。

反射的に息を深く吸った。

すると、肺だろうか。

胸がズキリと痛んだ。

釘を打たれたようなその痛みに、私は自由な片手でぎゅっと胸の辺りを掴む。

脚を曲げて、小さくうずくまった。


ここはどこだ。

何故ここにいる?

ここで何をした?

あの戦場はどうなった?

あの戦場で私はどうなった?

何が起こった?

何故生きている?

何故手錠がはめられている?

ああ、今は何時?

ぐるぐると、ただひたすら疑問が浮かんでいく。

答えは見つからず、しかし疑問は増えていく。

私の頭は、私の容量の開きはもう無いのに。

深呼吸しようにも、痛む胸がそれを邪魔する。

落ち着かないと、一度全て忘れよう。

更に強く掴んだ手を握って、

自分を守るように小さく縮こまる。




そんな私に、誰かの手が伸びる。

誰もいなかった暗い部屋に、誰かが入ってきた。

その手は、強く胸を押さえた手に添えられた。




深夜「…大丈夫?」



少しひそめられた声は、柊深夜少将のものだった。


顔を上げた。

金の双眼が悲しげに、不安げに微笑む彼を捉えた。

その瞳に、彼は少し表情を変える。

いつもの如く無感情な瞳だったが、その瞳に微かな温度を感じたから。

一方向しか見せない月が、揺らいでいたから。


A『………大丈夫…』


少しだけ掠れた声を発する。

胸の辺りを握っていた手を放した。

続けて彼も手を放す。


深夜「…それにしても。グレンは何を考えてるんだろうねぇ」

私の手をつないだ手錠を見すがめて、そう言った。

その言葉に、ようやくこれはグレンがやったのだと知る。

そしてここが、人間の使う場所だと理解した。


深夜「今は夜だから、とりあえず寝ると良いよ。」


今が夜だと知る。

少し冷静になれた私は、薬の匂いがするのにも気付く。

ここは、病院だろうか。何かの、研究室だろうか。

きっと後者だろう。病院で手錠などするはず無い。

研究、という事実を確信したが、何故か緊張は無かった。

焦りは、不安は無かった。

そろそろ、これらの感情には、慣れた。

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cocolove420(プロフ) - 面白いお話で続きが気になります!これからも頑張って下さい!応援しています! (2017年9月30日 15時) (レス) id: 66c6f3f00c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:アルカーヌ | 作成日時:2017年4月5日 13時

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