33、恩讐の彼方に ページ38
「芥川君!?」
椅子から転げ落ちた芥川くんを急いで抱き起こす。過呼吸気味であったので手袋で彼の口を塞ぐ。
「やっと、思い出したんか」
片脚のない、女が嗤う。
違和感があった。
だのにその正体が判らない。それがもどかしくて、わたしは頭を振って周りを見渡した。マフィア傘下とはいえ、饂飩屋の中でこんな騒動を起こしたのだ。人目が集まって然るべきである。
人目など、無かった。
「え」
「私の部下は優秀なんやわ。ここ一体の人間を転送させるなんて詮無いこと。もちろん生きとるで。人払いの手間を省いただけやァ」
「君は……何者だ。芥川君に何をした」
「芥川ァ? それゆうて芥川に聞くのが筋んとちゃうか。私は芥川になんちゃしとらん。そいつが勝手に過呼吸を起こして倒れただけやけん。ホラ、そなに話したそうにしよるで」
口を塞いだ手を、芥川君が苦しそうに掴む。
「芥川君、君は__」
「何故だ」
芥川君のかさついた唇と私の手袋を、蜘蛛の糸みたいな唾液が繋いで消えた。
「何故お前がここに居る……菊池、寛!」
目の中を星が飛ぶ、それほどの衝撃で頭も躯も動かなかった。
菊池寛?
菊池寛は男のはずだ。そしてもう、死んだはずだ。芥川君から聞いたことが本当なら、あの状況で生きていられるはずは無い。
「久々に親友と再開したのに、そんな言い方は無いやろうちゅうわけや。のう芥川」
「そんな……どうして。何故、こんな方法で__」
「今日ここに来たのは芥川、お前が丈夫なんにやっとるかどうか確認するためやけん。丈夫なんじゃないなら見舞いのひとつでも、元気げなら恨み言のひとつでもとな。見たトコ、虚弱そうだか元気げや……残念残念。そこのお嬢さん、お名前は?」
「有川……A」
「A。ええ名前やな。私は拳銃。この男は標的。貴女がこの男を仕留める弾となれ。……異能力、「地獄門」」
女の、綺麗な女の、
「! 駄目だ、A、目を閉じろ!」
突然、真っ白の閃光が私の目を射抜いた。
「私の異能は、異能を使った相手と彼を最初に目視した二人に発動する。刻限は一週間、一週間後に異能の対象は必ず死ぬ。解除のトリガーは__」
「二人が触れ合うこと」
芥川君が咳き込みながら云った。
「覚えとったんな? そう。見た目ばかり派手で実用性のない異能や。ただあんたらには、道理が違うようやの」
「待て!」
発砲音は、芥川君の空咳と空に消えた。
本日のやつがれ予報!
やつがれ
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羅生門 - 大丈夫かい?花川君。 (2021年3月31日 14時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
羅生門 - 龍之介君、ツボ推そうか?君といたらこっちまで君に感情輸入しちゃって大変な事になりそうなんだ。…咳を止めたくば血を抜け。私もそうした。 (2021年3月31日 14時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
羅生門 - 私の口癖、『可哀相』。それしか無いな。 (2021年3月31日 14時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
どどるげふ(善逸大好き) - 更新お待ちしておりましたーーー!!!!! もう更新されないのかと思ってましたが、毎日覗きにきたかいがありました(>_<)これからも更新頑張ってください*(^o^)/* (2021年2月14日 20時) (レス) id: 6deb9162af (このIDを非表示/違反報告)
千風(プロフ) - くりぇーとかさん» ありがとうございます!!自分たちの趣味ドストライクの子なので…!お気に召しました様でめっちゃ嬉しいです!!!何分そら豆の低浮上と私の掛け持ち(おい)でのんびりにはなってしまいますが…恨まず気軽に待ってやって下さい! (2018年12月20日 17時) (レス) id: 277371ed72 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:そら豆・千風 x他1人 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/
作成日時:2017年5月11日 20時