32、運命と奇跡、そして悲劇 ページ37
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「其れ、美味しいの?」
わたしが指差した先に在るのは__
「? 旨くない饉飩が有るのか?」
「だ・か・ら! わたしは食べられないの! もう四年以上も一緒に仕事してるのに、何でそうなる!?」
わたしの声を聞いているのかいないのか、芥川君は又饉飩を食べ始めた。
否、饉飩が普通『啜る』なのは勿論知っている。
「……啜れないのかい?」
「断じて違う」
見ててすっごい腹立つ。
この……なんて云うか、食べ方自体は迚も綺麗なのに、何だろう……超モヤモヤする。
「女子か! 芥川龍子か!」
「五月蠅い! 愚弄するか貴様!」
そして抑えた声で云った。
「愚者め、でかい声で名前を呼ぶな!」
わたしは口を尖らせて反論しようとした。
だが出来なかった。
何者かが、わたしに話し掛けたからだ。
「仲が良いのぅ。恋人か?」
「はぁ?! 恋人ぉ?! ふざけるのも大概にして」
見ると、微笑む女性だった。
柔らかそうな長い髪は深い葡萄酒(ルビ:ボルドォ)。
今にも消えてしまいそうな程白い肌に、ふんわりとした微笑を形づくる薄く紅い唇。
長い睫も葡萄酒色で、逆さに生えてはいるが其れすらも計算された美しさであるような錯覚を覚える。
縁取られた瞳は東雲のよう。
完璧な瞳を覗けば吸い込まれて二度と戻ってこられなくなる気がして、少し視線を落とした。
……彼女の余りの美しさに目を奪われ、今まで気づけなかった。
彼女は、“片足が無い„。
彼女は車椅子を操作し、わたしの横につけた。
「ほな、此処失礼するわ」
「嗚呼、勿論構わないさ。其の方言……故郷は香川かい?」
「おお、判るんな? 正確には知らんけど、多分そうじゃろ。こげな小さい頃にヨコハマん流れついたんやけど、四年位前にもっかい香川戻りもって」
正確には判らない……詰まり孤児だったのか。ヨコハマに売り飛ばされるのはよくある話だ。
「ふぅん……でも、だったらこんな場所、戻りたくないんじゃない? だってさ、其の脚も……」
売られた孤児が如何な末路を辿るか……想像にかたくない。今生きていると云うことは、早い段階で逃げ出したのだろう。
「真逆。貧民街での生活は確かにえらいけど、仲間も居ったしな。……マァ、二人を残して死んだけん、謂い記憶ではないわな」
途端、陶器が割れる音がした。
芥川君の湯のみだ。
中に未だ少し入っていたお茶が流れて、店の床に水溜まりを作って行った。
33、恩讐の彼方に→←31、父親(そう形容するには、わたしは些か其れについて諦め過ぎていた。)
本日のやつがれ予報!
やつがれ
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羅生門 - 大丈夫かい?花川君。 (2021年3月31日 14時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
羅生門 - 龍之介君、ツボ推そうか?君といたらこっちまで君に感情輸入しちゃって大変な事になりそうなんだ。…咳を止めたくば血を抜け。私もそうした。 (2021年3月31日 14時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
羅生門 - 私の口癖、『可哀相』。それしか無いな。 (2021年3月31日 14時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
どどるげふ(善逸大好き) - 更新お待ちしておりましたーーー!!!!! もう更新されないのかと思ってましたが、毎日覗きにきたかいがありました(>_<)これからも更新頑張ってください*(^o^)/* (2021年2月14日 20時) (レス) id: 6deb9162af (このIDを非表示/違反報告)
千風(プロフ) - くりぇーとかさん» ありがとうございます!!自分たちの趣味ドストライクの子なので…!お気に召しました様でめっちゃ嬉しいです!!!何分そら豆の低浮上と私の掛け持ち(おい)でのんびりにはなってしまいますが…恨まず気軽に待ってやって下さい! (2018年12月20日 17時) (レス) id: 277371ed72 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:そら豆・千風 x他1人 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/
作成日時:2017年5月11日 20時