シークレットノート【檜山光成】 (ページ41)

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振り向かなくても分かる、私の好きな人。

見られたくなくて、一度止めかけた手を無言で再開させる。

檜「セーターめっちゃ汚れてるけど、どうした？」

近づいて話しかけてくれる檜山くんを無視して、写真だけは回収したから見られないように腕の中に閉じ込める。

やだ。やだ。絶対、見られたくない。

この写真も、泣いてるところも、この状況も、本当は見られたくない。

セーターについた粉を軽く払ってくれる檜山くんは、相変わらず優しい。

でもその優しさは、私に向けるとただの思わせぶりにしかすぎなくて。

檜「ほんとにどうしたの？これ」

下を向く私の顔を心配そうに覗き込む檜山くんは、何も悪くない。

それは生まれ持った檜山くんの天性の優しさであって、誰も否定できない。

だからこそ、今はむしろ辛かった。

檜「俺には言えない？」

言いたいけど、言えない。

私がこの気持ちを伝えたところで、意味が無い。

だって檜山くんには、彼女がいるじゃん。

『…うそつき』

やっとのことで絞り出した言葉は、最低な言葉だった。

こんな最低な私に何度も優しくしてくれたのに、全部跳ね返して、踏みにじって。

ここで嫌われてしまえば、もうあとは関わらなくて済む。

一瞬気が抜けた檜山くんの間をくぐって教室を出ようとすると、その手が強い力で引き戻された。

檜「まって、俺なんかした？うそつきって何？」

『…檜山くんは、何も悪くないよ』

檜「それじゃ納得できない。俺、咲本に対して嘘なんてつかないよ」

『それも嘘だよ』

檜「嘘じゃないって」

いつもより言い方がキツい檜山くんの方は見れなくて、かと言って手は振り解けなくて、離してくれなかった。

檜「咲本は俺に嘘ついたことある？」

『…ないよ、あるわけない』

檜「俺も同じだから」

それが本当なら、あの子があんなに怒ってここまでしないよ。

檜山くんのことは信じたい。

でも実際に行動に移してきたのは彼女と思われるあの子で。

私から見れば後者の方が信憑性が高く感じてしまう。

どっちを信じて、自分はどうすればいいか分からなくて、とにかくここから逃げ出したくなった。

『…ごめん、1人にさせて』

消え入るような声でつぶやくと、私の手を掴んでいた檜山くんの手の力が抜けていく。

自由になった手でカバンの紐を握りしめ、振り向かずに教室を出た。