銀魂 光翼鳥の剣 黄金に輝く月 上

第２９幕　刻の歯車　（銀時サイド） ページ30

今井信女を信用できる人間だとは思ってない。

奴には人間らしい感情というものが欠けている。

情だとか、そんなものを持ち合わせていないのを、俺達は知っている。

だが、かぐや姫としてのAに一番に立ち向かった奴を、俺達は見た。

いつになく真剣な奴の姿を、俺達は見た。

そして佐々木からは、Aが記憶喪失だと聞いた時の奴の焦りようを聞かされた。

・・・どれも、普段の信女からは考えられない姿だった。

奴が何を知っているのかは知らないが、恐らく奴なりに心配していたんだろう。

だからこそ、奴の言葉に反論できなかったのかも知れない。

「恐らく、Aにここでの記憶は残っていないわ。・・・だから、この事は

　A自身にも、秘密にしておいて。・・・・・誰かが、適当に誤魔化せばいい」

信女はそう言って、踵を返した。

佐々木も、何も言わずに立ち去って行く。

後処理は真選組に押し付け、か。

土方はチッと露骨に舌打ちをすると、俺に近寄ってきた。

そして、黙ってAを俺に差し出す。

「・・・俺達はここの後始末をしなきゃならねェ。住民共の目につかねェ内に、

　Aを連れてけ。・・・・・・絶対に、この事を教えんなよ」

俺は、土方からAを受け取って、軽く頷いた。

「・・・・いいけどよ。俺達は黙ってるとして、てめーんとこの隊士達は大丈夫なのか？」

隊士の一人でもこの事を漏らせば、必ず騒ぎになって、Aの耳にも入る事になるだろう。

だが、土方は大丈夫だというように目を細める。

「ここに居るのは、隊士の中でも信頼のおける奴らだ。言うなって言えば言わねーだろうし、

　適当に脅しておけば、口が裂けても言わねーだろうよ」

「・・・ふーん・・・」

それなら・・大丈夫だろうか。

百華も秘密事項に対しては忠実だろうし、後は幸いその点信頼のおける知り合いばかりだ。

・・・本当に・・・・この事はAにとって無かった事になるのか。

いいような、悪いような・・・・何とも複雑な気分だ。

「ここの処理は、わっちらも手伝おう」

「あァ・・・頼む」

・・・とりあえず、後始末は真選組と百華に任せておいてよさそうだ。

「神楽、新八」

「は・・はい！！」

俺は、神楽達を呼ぶと一足先にこの場を後にする。

腕に抱いたAは、とても軽かった。

信女は、Aは二度とあぁはならないと言っていた。

理由は分からないが。

だから・・・・・・・大丈夫だ。

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