✳︎雨の日 ページ4
◯中島敦
「あっ、雨が…」
止まらず降り頻る雨に気付いた彼は、仕事をしていた手を止める。
次第に雨も雨音も強くなって、彼の表情も曇っていく。
そんな彼に理由を聞いてみれば、素直に答えてくれました。
「雨の日は、虎の聴覚がよく効かないんです」
雨音によって日常的に不意に出てしまう虎の能力が仇になってしまうようで
困った様に微笑む。
「もっとAさんの声をよく聞きたいのに…」
小さく呟いたその声は雨音によって掻き消されてしまいそう。
ちゃんと聞こえたのか、聞こえなかったのかは貴方だけが知っている。
ー
◯太宰治
「お陰様でびしょ濡れだよ」
予報には無い急激な雨が降ってしまい、
探偵社に帰ってきたかと思えば、子犬の様な表情でそう訴えかけてくる。
ポタポタと水滴が床に落ち、それを見た国木田さんが息をしていません。
「ふふん、それでも今日買った包帯は無事なのだよ」
誇らしげに見せてきたのは手のひらの上で積み重ねた包帯。
どうやら今日はこの包帯を買いに外へ出たみたいです。
人当たりの良さそうな微笑みと共に、何処かへ向かう彼が振り返って一言。
「却説、今から包帯を付け替えるのだけれど、Aちゃんも手伝うかい?」
ー
◯江戸川乱歩
「はぁ…雨の日はやる気が出ないんだよね〜」
気怠げに空になった駄菓子用の箱を覗く。
雨に加えて駄菓子が尽きてしまった彼は、机に突っ伏して完全にやる気も損なってしまったみたい。
「駄菓子屋さんに行くのも面倒くさい!どうせ雨だから皆もそう云うし…」
むすっとした表情でそう嘆き始める。
何かに気付いた様に、机に突っ伏したままラムネのビー玉を持って貴方を透して見た。
「まぁ、君がどうしても行きたいって云うなら有りだけど。
そうと決まればしゅっぱーつ!あっ、傘はAが持ってね」
急に元気良く立ち上がり、そのまま早歩きで過ぎ去る彼。
雨の日であっても、貴方と一緒なら元気が出るみたい。早く傘を持って追い掛けないと置いてかれてしまいますよ。
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作者名:花提灯 | 作成日時:2024年1月30日 13時