終わらない恐怖６ ページ21
＜貴＞
今日の夜勤は、比較的楽だ。
急変も、応援要請もないまま明け方を迎えた。
病棟の定期巡回をしていると、ちょうど女性用トイレからAが出てきた。
俺はその数メートル先にライトを持って立っていたんだけど、Aは俺にも気付かないくらい具合が悪そうだった。
トイレの入口のところで、車椅子をこぐ力もない、という感じでぐったりしている。
俺は慌てて駆け寄った。
「A？大丈夫か？」
「あ、たか、にい……」
Aの顔は真っ白で、すぐベッドに連れて行って足を高くして寝かせてやらなければ、と思って車椅子を押した。
病室のベッドにAを移し、使っていない布団をたたんで足の下に入れる。
それでもAは息苦しそうだ。
ＳｐＯ２下がってるのかもしれないな、と思い、パルスオキシメーターを取りに詰所に戻る。
計ってみると、６１％しかなかった。そりゃ具合も悪いわな……。
正常な人間だと、酸素の薄い富士山の頂上に登ったって、こんな低い数値にはならない。
血液が酸素を十分に運べない。
生まれた時からのこととは言え、どれだけしんどいか想像するだけで息苦しくなる。
詰所でリーダーに報告してきたので、枕元の酸素の機器を動かし、マスクに酸素を送ってAの鼻と口を覆うように被せた。
いつもなら嫌がるAも、今日は抵抗するだけの力が残っていないみたいだ。
頑張れ、頑張れ。
そう思いながらAの冷たい紫色の手を握る。
すると、それに反応したのかAが俺の名前を呼んだ。
「貴兄……」
「おう、どうした？」
できるだけ明るい声を出す。
「婦人科の受診、ちゃんと受けたんだよ……」
「聞いた聞いた。Aにしては随分頑張ったじゃん」
「どこも異常なかったって……」
「そっか。よかったな」
「私、元気な赤ちゃん、産みたいからさ……」
その言葉に、ぐっと言葉が詰まる。
Aのこの体で、出産なんていう膨大なエネルギーを必要とすることが、可能なのだろうか。
「じゃあ、頑張って身体治さないとな。赤ん坊生まれてからも具合悪かったら、赤ん坊が心配するぞ」
今は、いろんな希望を持たせてやるべきだと思った。
時には、夢とか強い願いが奇跡を起こすこともある。
俺の言葉に、Aは無理矢理笑って、「そうだね」とつぶやいた。
「いいから、もう寝ろ。寝るまで付いててやるから」
「うん……ありがと貴兄……」
そういうと、あっという間にAは眠りについた。
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みんみ(プロフ) - 更新希望です！何度も何度も繰り返し見ています！更新楽しみにしてます！この作品に巡りあえて幸せです！ (2016年10月28日 18時) (
レス) id: e5b883d2de (このIDを非表示/違反報告)
ﾏｰﾒｲﾄﾞ - 何回も読みたくなる程、素晴らしい作品で私のお気に入りです!!更新楽しみに待ってます♪身体に気を付けて頑張ってください(^o^)/応援しています(^^) (2016年10月3日 21時) (携帯から) (レス) id: fa8cf9b19a (このIDを非表示/違反報告)
みんみ(プロフ) - 更新楽しみにしてます！宜しくお願いします！ (2015年3月16日 16時) (レス) id: d1aa80a540 (このIDを非表示/違反報告)
旅人 - もちろん時間のある時で構いません。応援しております。 (2014年12月10日 15時) (レス) id: 2df0de9b14 (このIDを非表示/違反報告)
旅人 - 更新待ってます。お忙しいのでしょうが、楽しみにしておりますのでどうかよろしくお願いいたします (2014年12月10日 15時) (レス) id: 2df0de9b14 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：らら | 作成日時：2013年12月15日 7時
