愛情ノート【此世の全ては汝が爲に在り】

続、不良に絡まれました[小説] ページ14

「女みてーな見た目しやがって、お前に負けるほど俺たちは弱かねんだよ」
「なめてもらっちゃ困るね」
　金を出せば許してやるよ、と勝ち誇った表情で笑う不良連中に、ラファエルは小さく噴き出した。
　ぴたりと、彼らの笑いが止む。
「貴方たちこそ、私に勝てるのでしょうか」
クスクス笑うと、みるみるうちに不良連中の顔が赤く染まっていく。ラファエルの後ろに隠れている影の震えが、いっそう激しくなり、着物が引っ張られる感触も強くなる。
　やんわりと着物を掴む手を外し、少し離れているように言いつけた。どこまでも動じない奴である。
「てめぇ、ふざけんじゃ──」
水琴が下がったとたん、安い挑発に逆上した男がタイミングよく殴りかかってくる。
「あ？」
　それをあっさり受け止め、腕を掴み体を捻り、ラファエルは遠慮なしに男を投げ飛ばす。
幸いスペースは空いていたので、男は思い切り地面に叩きつけられあっさりノビてしまった。
　通行人の足と、不良連中の動きが止まる。
「口ほどにもないですね」
　顔に笑顔を張り付けたまま、ラファエルは振り替える。
「今、何しやがった？」
　すでに怯えた不良の一人、青年が倒れた仲間を指差す。ラファエルは肩をすくめた。
「ただ単に、投げ飛ばしただけですよ」
　目だけで、まだ続けますか？ と問うた。くそっ、と悪態をついて、もう一人が殴りかかってくる。
　今度は拳を受ける前に投げた。最初の男の上に、もう一人が重なる。
後ろの方で見守っている水琴の顔から不安は消え去っており、わくわくした表情でラファエルを見つめていた。
「すごいすごい！ラフ！」
「はは……見世物ではないのですが」
　まあ、怯えているよりはずっといい。楽しそうで何よりです、とラファエルは苦笑する。
「はっ、こっちは何人いると思ってんだ！」
　自棄にでもなったか、不良連中は懲りずにラファエルへ挑む。いつの間にか周りに人だかりができていた。
「だから、見世物では……」
　ため息を吐きつつ、ラファエルは飛んでくる拳を軽く避け、一人、また一人と一分もかからず全員を地に沈めてしまった。
　沸き起こる謎の拍手に込み上げる嫌味を堪え、乱れた着物を整える。
　抜け出せなくなる前にさっさといなくなってしまおうと、はしゃぐ水琴を抱えあげ、
(野次馬精神だけは立派ですね)
　ひとつ胸に刻み、山になった不良連中をそのままに、ラファエルと水琴はその場から足早に立ち去った。

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