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病院へ向かうまでの間に、ユリは心の中で決めていた。



妊娠していなかったら、何もなかった顔をして帰ろう。
もしも妊娠していたら…見つかるまでは帰らないと。



そうは言っても、土地勘のない場所に行くのはためらわれ、
結局、地下鉄に乗って六本木の実家近くへ戻ってきた。



セーフハウスからもすぐではあるのだが、
だからこそ見つからないのでは、とユリは考えた。



2人と初めて出会った西公園。



ベンチに座っていると、近所の子どもたちが遊びにやってきた。



あの日、まさにこの場所で、2人とすれ違った時から、
こうなる運命だったのだろうか。



ふいに視線を感じて目をやると…



――――――――――――――――――――――――――



いつもは綺麗にセットしている髪も乱れ、
息も切れ切れになった蘭がこちらを見ていた。



「見つかっちゃった…」
とユリが笑いかけると、蘭は黙って近づき強く抱きしめた。



「部屋…水浸しになってるかも…
 ゴメン…」



何を言っても蘭は腕の力を緩めない。



「なぁ…本気で逃げる気じゃねぇよなぁ…?」



「迎えに来てくれたら、ちゃんと帰るつもりだったよ」



その言葉に、少しだけ力が緩んだ。



「どうしてここにいるって分かったの?」
「勘」
「すごいね…

 ねぇ、久しぶりにデートしよう?」
「…は?」
「付き合ってくれたら、ちゃんと一緒にお家に帰るよ」
「…どこ行きてぇの」
「街を歩くだけでいいの」
「車でいいだろ」
「ダメ、一緒に歩きたいの」



こういう時のユリは絶対に言うことを曲げない。
しぶしぶ2人は歩き出した。



―――――――――――――――――――――――――



学生の頃一緒に行ったゲーセン。
プレゼントを買ってもらったブティックや、
記念日を祝ったレストラン。



思い出話をしながら歩いていると、
気づけば日が暮れかけていた。



街は少しずつ変わりながらも、
2人の思い出は色あせていなかった。



「…気ぃ済んだ?」
「うん…ただ、帰る前に大切な話があるの」



「大切な話」という不穏な言葉が、
蘭の心臓に突き刺さる。



「なに…?」



「私…妊娠してるの。
 今日…実は病院に行ってたの。
 
 ねぇ…私、どうすればいい?」

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作者名:あたそ | 作成日時:2023年3月20日 23時

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