ショート・ストーリー (ページ3)

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10年後、あなたとー３ーページ3

藍｢あ！祐希さん！おつかれーっす！｣

トレセンに着いて、とりあえず挨拶を済ませようとまっすぐ体育館に向かうと、ボールを拾いにきた藍が俺に気づいた。

石川｢おー。藍は今日も元気だな｣

藍｢それが俺のいいところなんで｣

｢じゃっ、またあとで｣とニカッと笑って去っていく最年少(今のところ)は、まるで弟みたいに可愛いヤツ。
俺のこと慕ってくれてるし、藍が入ったことで俺もかなりやりやすくなった。これはリベロも一緒だろうな。

今日からまた代表キャプテンとして頑張らなくちゃ、と気を引き締めて体育館を見渡していると、｢関さーん！ちょっと心拍数のデータ取りたいからモニター付けさせて！｣とよく通る女性の声が聞こえてきた。

聞き覚えのある、元気いっぱいな声。

心臓が高鳴るのを抑えるように、胸に手をあてながらひとつ、大きく息を吐く。

いた。
Aさんだ。

Aさんが高校を卒業してから10年間、連絡を取ったことも姿を見たことも無かったけど、すぐに分かった。

あの時と変わらない声と笑顔。そしてテキパキと動く仕事ぶりに、懐かしさと嬉しさがこみ上げる。

石川｢あ、｣

じっと見すぎたかな？

ふと顔を上げたAさんとばっちり目があった。
ちょっと驚いた様子だったけど、すぐに笑顔になって再び関さんのモニターを付け始める。

え、なに今の笑顔。

Aさんから目が離せないでいると、背後から｢なにやってんの？入らないの？｣と言う声。

この声は太志だな。
太志は俺の高校時代のAさんへの想いを知ってる唯一の人だ。

小野寺｢あ、もしかして梶浦さんに見惚れてた？それとも関さんに嫉妬？｣

石川｢そんなんじゃねーし。なんか、変わってないんだけど変わってて、嬉しいっつうか｣

小野寺｢なにそれ。意味不明〜｣

俺も言ってて意味分かんね、なんて二人で笑い合って、そろそろみんなに挨拶しなきゃと監督たちのほうへ向かう。
もちろんそこには、Aさんもいる。

監督やコーチ陣に挨拶をすると、先にアナリストとして帯同してくれている行武さんがAさんを紹介してくれた。

でもね、初対面じゃないんで。
今さら紹介なんて、俺らの間には必要ないんすよ。

石川｢Aさん。お久しぶりです｣

俺の挨拶に、Aさんも(たぶん)今日イチの笑顔で答えてくれる。

｢久しぶり、祐希。本当に代表チームで会えたね｣

Aさん、10年前に言ったことをちゃんと覚えていてくれた。