short story S

41 ジェヒョ ページ41

暑い。暑い。暑い。

本当に暑い。
今日は歩いての移動が多くて。
寝不足が続いているからか、頭がクラクラ。体もだるい。
半袖にハットを被っているだけなのに、なぜか何も涼しくない。
暑い。
あー。
だめだ。
ほんとにだめ。

今にも座り込んでしまいそうだ。


「あのー。すいません」

肩をたたかれ振り返る。

『すいません、今はちょっと』

顔を伏せて声を振り絞る。

「大丈夫ですか？しんどいんでしょ？これ使って下さい」

そう聞こえたと思うと、ヒヤっとした感覚が首にあたる。

『うわっ』

気持ちいい。

差し出されたものをみると、白いフワフワしたハンドタオルに包まれた保冷剤。なのかな？

「かなり青い顔してたから。熱中症になりかけてますよ。早く涼しいところで休んでください」

心配そうな顔で冷たいタオルをおでこにも当ててくれる。

『ありがとうございます』

突然の優しさにびっくりして、されるがままだ。

「あとよかったらこれも」
「まだ飲んでないので」

そう言ってピンクの水筒を差し出してくれる。

「安いものなので飲んだら捨てちゃって下さい」

『あり...がとうございます』

「早く休んでくださいね。ほんとに」

じゃあ、と言ってお辞儀をして歩いていく。

手には白いタオルも握ったまま。

『あの！これ必ず返します！名前を...』

氷を首筋に当てながら聞く。

驚いたような顔をしていたが、少し笑って

「Aです。この先の病院で働いてます。元気になったら来てください」

そう言ってから、

「元気になってから病院に来てくださいって、おかしいですね」

控えめに笑っている。

「お大事にしてください」

手を振って歩いていってしまった。



風が吹く。


冷やしたところが気持ちいい。



手にした水筒の中で氷がカランと音を立てた。

42 テイル→←40 ピオ

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す