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いち ページ1

ポートマフィア
フロント企業で血に濡れた金を洗浄し、貿易としてさまざまな商品を扱う巨大組織である。

そう、様々な商品を扱うのである。
例えば、武器。
例えば、宝石。
例えば、人身。

そして今日も法の合間を縫って商品を運搬する業者がいた。

それは海の上だった。

雪も降るホワイトクリスマス。

真冬の貨物船からか細く声が聞こえた。

「ここから、出して…お願い…」
ボロ布1枚を身につけた幼な子が動物運搬用の狭いゲージに入れられ、銃を持つ見張りの男に懇願した。

「商品は黙ってろ」

彼此8時間はこのやり取りを続けている。
男の方も煩わしそうに答えた。

「寒いの、眠いの、助けて」

商品は商品。人権などない。
極寒の檻の中、冷たい鉄格子や手足の鎖が嫌でも体温を奪う。

小さな身体はもう限界だった。

暗い倉庫の中でガシャリ。鎖の音が大きく反響した。

小さな体が限界を迎えたのだ。

己の内に住まうバケモノを押さえつける力の限界が。

今まで有った彼女の瞳の温度が急速に失われる。

やがて、船が傾きだした。

「ここから、出せ」
高い声が男に命ずる。

「このガキが…っクソ、何だこのっ」

文句を言った見張りの男に襲い掛かる圧。
日々感じ、慣れ親しんだはずのその力は徐々に猛威を振るう。とうとう男が叫んだ。

「チーフ!!助けてくだっ…!!」

静かな絶命。

叫びを聞いて船員の一人が駆けつけたが、そこに広がるのは無残に押し潰された部下の姿と、暗闇に浮かぶ焔のような瞳。

床が歪み、何か重りがついたかのようにそちら側に船が傾く。

「っ!この化け物め!船を沈める気か!」

焔に向けて銃を撃つも跳弾の音すら響かない。

何故なら、空中で時が止まっているから。


大きな貨物船はやがて海に傾いて、数時間をかけて沈んだ。

乙八一一二、と躰に刻まれた幼い女。

模擬金剛(アレキサンドライト)

数百億の積荷を海に沈めた元凶の商品名である。


神の復活の祭りの日に別の神は自我を得た。

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作者名:蘭兎 | 作成日時:2019年8月1日 22時

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