ヒロインにはなれない (ページ1)

今日:12 hit、昨日:154 hit、合計:79,227 hit

1 ページ1

・

「あのさ、それ本気で書いてる？」

「やーまん。私はいつでも本気だよ？」

早く帰りたいから、いつもより雑な字で書かれた日直日誌を隣に座っていた檜山にひょいと奪われた。

「一日の振り返りで、こんなこと書くやつ、日野だけだよ。」

「だって、今日の黒ちゃん見た？いつもの100倍かっこよかったよ。」

いつもと変わんないでしょって檜山は呆れた顔で笑うけど、今日の黒ちゃんは確実にいつもの倍かっこよかった。

だから、〈一日の振り返り〉のところに黒ちゃんの今日のかっこいいポイントをまとめた。

「てか、日野っていつから光輝好きだっけ？」

「高１の夏くらい？え、なに、檜山私のコイバナ聞いてくれる感じ？まじらびゅ」

「おいて帰るぞ。」

「ねえーうそうそ。」

立ち上がった檜山をもとの席に戻しながら、真夏の放課後の教室を思い出した。

たしか、あのときも日誌書いてたっけ。

「あのさ、一人で急にニヤけるのだけやめて？」

「思い出しちゃっただけじゃーん。」

「マジで帰るよ？」

本気で帰る準備をしだす檜山を止めた。

「でもさ、無理なんだよね。」

視線を上履きのつま先当たりに落として先ほどあった出来事を思い返す。

私には向けたことない、愛おしそうな視線。

「気にすんなって。」

離れてたと思った檜山が近くに来て軽く頭をなでてくれた。