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その日は満月だった。異常な程に綺麗な、でもどこか奇妙さを感じるような満月だった。
満月の日は私にはすることがある。チャリ……と音を立てたそれを私は月にかざした。『それ』とは物心ついた時からずっと持っているネックレスだ。十字架に赤い宝石のようなものが埋め込まれている。別に誰にやれと言われた訳でもないのだが。なんとなく、だ。
夜に窓を全開にしているのは物騒だ。もういいかな、と思い私は窓を閉めようとした。
だが窓は閉まらない。何かに突っかかっている訳ではなく、どちらかというと誰かの手によって阻止されようとしている気がした。
「閉めないで」
閉めないで……?こんな夜中にどこから声が聞こえてくるというのだ。幻聴?有り得ないと思いつつも、私は外を確認した。
「……誰も、いない」
当たり前だが、いや、当たり前でなくてはならないのだが人の姿はなかった。
代わりに人ではない何かが上から姿を現した。
「やーっと見つけた」
先程と同じ声だ。声の持ち主は私の前に来て、窓枠に足を着く。
「は……」
傷んだ茶髪に、襟足だけ赤く染まった髪の毛。カーマインの瞳に、口元には隠すつもりもない、と言わんばかりの牙。
思考はいろいろ追いついていないが、今私の目の前にいるこの男が人間でないことだけは容姿からわかる。
「探すのそれなりに苦労したんだからな。前と場所違うしさぁ」
探す?どうして?何故?意味がわからない。
目の前で起きていることについていけず、私は悲鳴すら出せずに呆然と立っていた。
「ねぇ。もうAを探すので疲れちゃってさあ、血、吸ってもいい?」
そういうと目の前の男は私の首筋に手を這わせた。
「ま、待って……意味が、分からない。あなたは、何?」
「何って……見て分かんない?……まあ、行動にした方が分かりやすいか」
そういうと目の前の男は、私の首元に噛み付いた。
「い……ったい」
自分が何をされているの分かり始める。私は今、吸血されている。得体の知れないものに血を吸われていることに何とも言えない不快感が湧いてきた私は、その得体の知れない男を突き放す……ことも出来ないほど、吸血によって力が無くなっていた。弱々しくトン、と彼を押すと、意外にも離れてくれた。
「……これで俺が何か分かったでしょ。俺は__」
卑しく笑いながら彼は言う。
『吸血鬼だよ』
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蘭(プロフ) - 鮫島さん» コメントありがとうございます!そう言ってもらえてとても嬉しいです。更新が遅くて申し訳ありませんが、続きを待っていただけると幸いです。 (2020年3月22日 3時) (レス) id: fe69aa8e2d (このIDを非表示/違反報告)
鮫島(プロフ) - とても私好みの小説で面白いです…!更新頑張ってください! (2020年3月19日 0時) (レス) id: f96bdb592e (このIDを非表示/違反報告)
蘭(プロフ) - 巡さん» コメントありがとうございます!そう言ってもらえて嬉しいです。更新頑張ります。 (2020年1月7日 18時) (レス) id: c4a54b0710 (このIDを非表示/違反報告)
巡(プロフ) - ものすごく素敵なお話ですね…!応援してます!頑張ってください! (2020年1月6日 21時) (レス) id: c8ea001036 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蘭 | 作成日時:2020年1月4日 15時