神代先輩に落とされた(物理) (ページ25)

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ハッピーエンドを掴みたくてページ25

『司、ごめん。私はやっぱり類を諦めきれなくて…。半端な気持ちじゃ申し訳ないから』

数日たち、放課後に司を屋上に呼び出し、頭を下げた。

「…！そうか、でも、お前が類を好きなのは知ってた。俺だけを見なくてもいいから…、その、少しオレもお前の視界に入れてくれると、嬉しい」

『当然。司はいつだって私の大切な人。いつも私の視界にいたのは司だよ』

「A…やっぱオレ、諦めきれない。勝手なのを承知で、半端な気持ちでもいいからもう一度考えてくれないか……？」

司は必死だった。涙目で必死に訴えかけられ、私の何かが動くような感覚があった。

『それなら…』

「その決断、ちょっと待った…と言っても、僕にはもうそんな資格はないけれどね…」

屋上の入口に立つ、今も諦めきれず大好きな先輩。

『…！る……ぃ、違っ……か、神代先輩』

「…本当に済まないことをしたね。さっき、青柳くんに捕まって無理やり話を聞かされたよ。わけも聞かず突き放してしまったこと、謝らせてくれ」

『……』

「………」

静かに、時間が流れる。まるで背中を押すように風がそこそこ広い屋上を吹いた。

先輩が深く深く頭を下げる。

『………先ぱ』

「先輩、じゃなくて」

『類、だよね』

「…………ごめん」

『もういいよ』

茜色の空をバックに、3人。沈黙が横たわる。

「やっぱり、オレは類には勝てないな…」

「…きっと、お互い様さ。僕は君に負けて、勝っている。もっとも、彼女に笑顔を思い出させることが出来たのは僕なのかもしれないけれど、この手で消してしまったのも僕だ」

『みんな負けでみんな勝ちなんじゃない？』

見えない何かから開放された私は、へなへなとコンクリートの冷たい床に座り込んだ。

制服が汚れるなんてこと気にせずに、寝転んだ。

まだ暑さが残る屋上で、たった一言。

『いいじゃん、それで。私はただハッピーエンドをつかみたいだけ』

ふ、と小さく笑う声が聞こえる。類がしゃがみこむ気配がした。無論、司も。

優しくて大きな手が私の頭を撫でる。この年で、と思う反面、喜ぶ自分がいた。

『司ー。アイス奢って、蒸し暑い』

「は？………ま、まあ、お前ならいいだろう！！！」

『ダッツね』

「………。許す！！！！！」

『すき！！』

「「えっ」」

『んふふ』

濃いオレンジから群青色に染まりかけている空を眺めながら、私達はただ笑いあった。