決戦と逆転 ページ15
電話口の彼は、一瞬押し黙った。
沈黙が訪れる。
＿＿急になんだ？というか、お前の顔を見たら丸わかりだったぞ？
…ああ、彼はなんて優しいんだろう。彼女と過ごしてきた日々を踏まえると、きっと抱く感情は僕を上回っているはずなのに。
＿＿おや、心外だな。
＿＿ふっ、まあ、頑張れ。
否。これは、優しさもあるのかもしれない。けれど、彼の声のトーンから汲み取るに、彼なりの“勝負”の仕掛け方なのかもしれない。
「やれるものならやってみろ」、と。そう言われた気がした。
そこで電話は切れた。通話終了の画面を眺めながら、「ふふ、望むところだよ」と呟いていた。
♪……♪
You side
再び先輩に手を引っ張られながら歩く。先程3人とは別れ、フェニランを出て、すっかり日が沈んだ街を歩いていたのだが。
「二瀬くん。今日から、下の名前で呼んでも…いいかな？」
『え』
「顔が赤いよ？Aくん？」
こいつ。顔が良くて身長が高いのをいいことにそれを最大限まで引き出して破壊力をえげつないまでに膨張させやがった。
『う……、じ、じゃあ、先輩も、類先輩って呼びます、ね』
苦し紛れにそういえば、満足そうに頷く先輩…と思ったら。
「だったらいっその事、先輩呼びをやめて、敬語を外そうか」
『え？』
そう言って先輩は指を絡めてきた。
最早このテンポに順応してしまい、なんとも思わなくなった。人間って怖い。
『類、類くん、類さん………んー、どれもしっくり来ない…ってちょ、先輩？！』
先輩はその場にしゃがみこんで、「供給」がなんとかかんとかとブツブツ呟き始めた。
「やっぱり君は可愛いね…！」
『はい？』
とうとう脳が混濁してしまったのか、訳の分からないことを言って来る先輩。
「類でいこう！それがいいよ！！！」
『あ、はい？』
「敬語も外そう…ね？」
急に色気を出してきたり、子供のようにはしゃいでみたり。意外とこの人はコロコロと表情が変わる。
『ん、じゃあそうするね』
「ん゛っ………」
頑張って敬語を外したのに、急に目を逸らして口元を抑える類。
んー…順応って難しい。……って言うか。
『なんでこんな嫌いな先輩と急に距離縮まってんだろ』
あっ。
「君は上げてから一気に落とすのがお好きなようで」
『いや、あの、声に出てたなんて…ﾋｪｯ』
「ふふ、君に嫌われているのは知っているよ。」
『んー…』
思わず顎に手を当て、考え込む。
『今の先輩は、なんだか嫌な感じしないんだよなあ…』
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作者名：ｆ. | 作成日時：2022年2月6日 17時
