19 無言の圧力 ページ19
「入るよ…？」
襖をそっと開けると布団に横たわり目線だけこちらに向けていた焦凍がいた。
「悪ぃな、わがまま言って。」
「そんな事ないよ、いつでも頼って！あ、食べたい物とかある？お粥とかなら作れるし、何でもするよ？」
「──じゃあ、蕎麦が食いてえ」
「そ、蕎麦？！蕎麦はちょっと作れないな…。どうしても食べたいならスーパー行って茹でるタイプのやつ買ってくるけど…。」
じぃぃ…。文字に起こすとまさにこう例えるべきだろうか、焦凍が真っ直ぐとこちらを見てくる。
この人はまさか私に蕎麦をいちから打てと目で訴えているのだろうか、何でもするとは言ったが流石にそれは無理だ…。
謎の圧と見つめられる事への恥ずかしさに耐えきれずスーパー行ってくる！と言い、体をひねり立ち上がろうとしたその時。
「ひゃっ」
後ろから伝わってくる暖かい何か。
私の長い長い思考回路はやっと"後ろから抱き締められている"ことを理解した。
「──えっと、ドウシタノデスカ？」
突拍子の無い出来事に思わず口調がおかしくなる。
焦凍の返事は無かった。
背中越しに体温が伝わりとても熱い。
焦凍の息がうなじにかかりこそばゆく、何より心臓がうるさい、体の中に爆弾でも飼っているような心地だ。
「しょ…と…？」
ゆっくりと後ろを振り返ると想像以上に焦凍の顔が近かったので反射的に引いてしまう。
それでも彼は一向に私の身体から手を離さない。
それどころかゆっくりと顔を近付けてくる。
私が身体を徐々に後ろに引いていくも焦凍は負けじと近付いてくる。
そしてついに私の背中は床と密着し、逃げ場が無くなってしまった。
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作者名：薫 | 作成日時：2020年8月12日 1時
