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Angel 18 ページ20

――三途――


形ばかりの笑みを顔に張り付けて、目の前にいるクソどうでもいい女に甘ったるい声で話しかけつつ、時折視線をキッチンへと向ける。


食器を棚に戻すAは、先程からしきりに目元をこすっている。泣いているのだろうか。そうだといい。涙を見せないように、何とか気丈に振舞おうとする彼女の有様に、ゾクゾクする。もっと虐めてやりたい。思いっきり傷付けて、再起不能なまでに壊したい。


そうしてそこまで壊しきったら、今度はドロドロに甘やかして、その宝石みたいな蜂蜜色の瞳に、自分の姿だけを映し出させたい。


色素の薄い亜麻色の髪と、透き通る白い肌。天使の名にふさわしい儚くも繊細な美貌に、疑うことを知らない純粋無垢な精神。性格は温厚かつ慈しみ深い。そんなまさしく天使とも呼ぶべき彼女の絶望に染まった顔は、いったいどれほど美しいのだろう。


そんな異常性に満ちた愛が存在する一方で、大切にしたい、守ってあげたい、彼女に降りかかる困難はすべて自分が取り払ってやりたい、そんな良識的な愛もまた存在する。


仕事で疲れて帰ってきた自分を「おかえりなさい」と温かく出迎えてくれた時、自分のためにホカホカのご飯を作ってくれた時、「三途さん、」と親愛を込めて名前を呼ばれたとき、心の中のどす黒く凝り固まった部分が、じんわりと優しく、甘やかに溶かしだされていくのが分かる。


クスリが切れた時の虚無感も、銃で人を殺す感覚も、生臭い血の匂いも、全てを忘れられる。
Aの存在全てが、真っ黒な自分を優しく受け止めて、温かく包み込んでくれる。


Aが好きだ、大好きだ。優しくしたい、泣かせたくない。ずっとずっと傍にいてほしい。



そんな相反する愛情をAに対して抱く自分が、時々よく分からなくなる。
Aに男がいると聞いたとき、膨れ上がった憎悪。後悔させてやりたい、傷つけてやりたいという嗜虐的な欲望は、Aの切なげに伏せられた睫毛を見て、しぼんでいく――はずだった。




「うそ、今来てるの?ここに?」

スマホを耳に押し当てて、弾かれたように立ち上がったAの表情には、隠し切れない歓喜が滲み出ていた。先程の涙が、噓だったんじゃないかと思えるほどに。


「すぐ行くから。ちょっと待ってて!!」

ものすごい勢いで走り出していくA。無意識的に、その背中を追ってしまう自分がいた。

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@じゅら - パクりですか? 似てる作品を知ってるのですが… (11月26日 22時) (レス) @page47 id: d21974408e (このIDを非表示/違反報告)
瑠璃(プロフ) - はじめまして瑠璃と申します。ハッピーエンドかと思いきやまさかの展開でびっくりでした。続編希望します。 (9月5日 16時) (レス) @page45 id: f3335c8e16 (このIDを非表示/違反報告)
ひよこ - めっちゃ最高です (2023年1月11日 22時) (レス) id: 395eb4f5e7 (このIDを非表示/違反報告)
ひよこ - これってもしかしてお隣の天使様に駄目人間にされていた件っていうのを参考にしてますか? (2023年1月11日 22時) (レス) id: 395eb4f5e7 (このIDを非表示/違反報告)
ちゃてぇ(プロフ) - 初コメ失礼します。 梵天のメンバーたちが夢主ちゃんに依存?しちゃう感じででもほんわかな感じで三ツ谷君とこのままハッピーエンドで終わるのかなとおもったら最後の最後でバッドエンドで裏切られました。終わり方も切なくていいなと思いました。続編待ってます (2022年10月30日 22時) (レス) @page47 id: ae31029510 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:雨降り星 | 作成日時:2021年11月3日 20時

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