＿＿＿19 ページ25
意識が霞みそうになる中で、万次郎の、光のない真っ黒な瞳と目があって。＿＿ああ、あの時と同じだ、とそう考えた。
何でだろう、今から殺されそうだというのに、どうして私はこんなにも落ち着いていられる？
―――きっとそれは万次郎だったから。私はいつも、彼のすべてを許してしまう。
暫くして目が覚めると、万次郎はいなかった。傍のテーブルに、“ごめん”と走り書きされたメモが残されていただけ。
何事もなかったかのように、この日常は続いた。そんなあるとき、部屋に子猫が偶然入り込んできて。猫好きな私としては嬉しくて、夢中になって戯れていたら、傍に万次郎がいることすら気が付かなくて。彼は、何も言わず、そんな私をじっと見ていた。
“ミャ〜オ”
「ほら、お母さんの元に帰りな」
しばらくすると、我が子が心配になったんだろうか、親猫らしき猫の鳴き声が聞こえてきて。
子猫は喜び勇んで、母ネコの元へ向かって行く。
「……猫好きなんだったら、アイツを飼えば良かったんじゃねぇの？」
「ん？――そんなの、あの子がかわいそうでしょ。私の勝手な願望で、親から引き離すとか」
「……」
黙り込んだ万次郎は、暫くしてまた口を開く。
「……なぁA、人を愛するって、どういう事だと思う？」
これはまた唐突に重い話題。しばらく考えて、私は答える。
「その人の幸せを願うことじゃないかなって、私は思うけど」
愛しているから、幸せになってほしい。たとえその幸せの中に、自分は含まれていなくても。
「―――そっか」
そう頷いた彼の顔は、とても穏やかだった。今まで見たことがない程に。そのまま、押し付けられるようにして渡されたのは、私の荷物が諸々入ったカバンだった。
「A。…俺さ、Aが好きなんだよ。世界で一番愛してる。――だから、家に帰れ」
「……ぇ」
＿＿唐突にそう言われ、理解が追い付かない。
「このままだと俺、絶対Aのこと不幸せにする。傷付ける。だからもう、オレの目の前からいなくなれ。―――俺に、殺される前に」
実感のこもった響きだった。愛するがゆえに殺してしまうから、と万次郎は言う。
「幸せになってほしいんだ、オマエには」
――――そう、泣き笑いのような顔で、万次郎は言った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1301人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「東京リベンジャーズ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ミツキmitsuki(プロフ) - さいっこうに面白かったです！みんなの特徴を捉えてて、本当にすごい… (12月30日 14時) (
レス) @page44 id: 75866be232 (このIDを非表示/違反報告)
むーこ - 三ツ谷君かっこよすぎです。。。。。この作品に出会えてめちゃくちゃ幸せです。。。！ありがとうございます！！ (12月28日 1時) (レス) @page44 id: 612ac16389 (このIDを非表示/違反報告)
ユキト(プロフ) - 隆が男前すぎてキュンキュンが止まりません！完結おめでとうございます！ (7月8日 9時) (レス) @page44 id: 08a263e11b (このIDを非表示/違反報告)
Kさん - ドラケンがいない気がするけど気のせいでございましょうか？あと最っっっっっっ高です！ (2022年9月9日 18時) (レス) @page44 id: f72f202f06 (このIDを非表示/違反報告)
shoko0619(プロフ) - この小説大好きすぎます。大好きです。消さないでください。 (2021年12月31日 9時) (レス) id: 9301928d42 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：雨降り星
| 作成日時：2021年9月25日 14時
