２６７．しっかりしなくちゃ ページ29
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「さっき、松兄から連絡があったよ」
猫舌の大野さんが、カフェオレを啜りながら言った。
「松岡さんから？
例の目黒の一件？」
「うん。
僕らの提出した報告書を元に補充捜査をして、近々立件したいと言っていた。
近いうちに准教授の奥さんを任意で呼んで、事情を聞くそうだよ」
「そっか。
松岡さん、仕事が早いね」
調査の結果は依頼人には直接知らされず、新聞やテレビのニュースに出るだけらしい。
ここに至る過程を見て来た俺としても、この事件の行く末は気になる。
東京に戻ったら、ニュースをマメにチェックしなくっちゃ。
カフェオレを飲み干した大野さんが立ち上がる。
「さてと…
ご馳走様。
サラダ、美味かったよ」
ふにゃっと微笑みかけられて、俺もふにゃっと微笑み返す。
「こちらの方こそご馳走様でした。
大野さんのカレーとナン、美味しかったです」
「そう？
それはよかった。
じゃ、僕は仕事に戻るね。
翔くん、今日は六時にグリーンストームってことで」
ウッドデッキのスリッポンに足を入れながら、大野さんが櫻井さんに言う。
「ＯＫ、六時ね」
工房へ向かう大野さんの背中を見送った櫻井さんが、俺に振り向いて苦笑した。
「何だか今日も忙しそうだね。
そそくさと仕事に戻っちゃったよ」
「納品は夕方の一件だけですけど、
製作が随分立て込んでるみたいです」
「別荘のお客さんは、そろそろ休暇を終えて、地元に戻る人もいるからね。
その前に納めたいって思ってるみたいだけど、無理して身体壊さないことを祈るのみだよ」
忙しさがピークの大野さんを放って東京に戻るのが後ろめたい。
こんな俺でもいないよりはマシみたいだから。
やがて櫻井さんは、夕方グリーンストームで会うことを約束して仕事に向かった。
最後の日だからと玄関の外まで見送った俺に、彼は「新婚妻みたいだ」と笑って、黒いＳＵＶに乗って颯爽と出掛けていった。
大野さんといい櫻井さんといい、俺がここで出会った人々は皆、自分が輝ける仕事に就いているのが眩しい。
自分の不安定な立場と比べてるせいもあるが、俺にはそれが眩しくて。
リビングボードの上に置いた、大野さんが書いてくれた紹介状をそっと手に取る。
「俺もしっかりしなくっちゃなぁ」
東京に戻ったら、この紹介状を持って人生初めての就職試験を受けにいく。
その合否が出たとき、俺は大野さんに直接報告出来るのかな…。
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kotorix(プロフ) - しのぶ(改)さん» しのぶさん、拙い作品ですが、最後までお読みいただいて本当にありがとうございました。随分前に書いた物語ですが、密室トリックを考えているときは家族にだいぶ気味悪がられました(^_^;) (2019年1月6日 16時) (
レス) id: 5cfd22b9da (このIDを非表示/違反報告)
kotorix(プロフ) - りんごさん» りんごさん、一年もお返事せずに大変失礼いたしました。最後までお読みいただいて本当に嬉しいです。こちらの方こそありがとうございました(*^_^*) (2019年1月6日 16時) (レス) id: 5cfd22b9da (このIDを非表示/違反報告)
しのぶ(改)(プロフ) - 泣きました。素敵な物語をありがとうございます。 (2019年1月5日 22時) (レス) id: 3f40e942ad (このIDを非表示/違反報告)
りんご(プロフ) - 天才だと思いました。本当に、本当に面白かったです。ネット小説で、こんなにハラハラドキドキしたことはありませんでした。すごく楽しかったです。素敵な小説、ありがとう (2018年2月14日 21時) (レス) id: 31eb5fcb90 (このIDを非表示/違反報告)
kotorix(プロフ) - たけちゃんさん» たけちゃんさん、コメントとっても嬉しいです♪最後までお付き合いくださり有り難うございます！風呂敷を広げ過ぎて迷走した作品ですが、ラストシーンが頭に浮かんでからはそこに辿り着くよう目指しました。再び始まった五人の物語を思い描いてい頂けたら嬉しいです♪ (2014年9月11日 13時) (レス) id: e9eb502708 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：kotorix
| 作成日時：2013年6月2日 22時
