２６３．別れの朝 (7/14) ページ25
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郵便受けの朝刊を取ろうと玄関の扉を開ける。
ひんやりした空気が薄いパーカーの下の肌を心地よく刺激した。
今日もパンの配達はない。
何の前触れもなく清里から去ったパン屋のことを、今更話題に出すこともなくなった。
工房の扉はもう既に開け放たれていて、作業の準備に取りかかっている白いシャツの背中が見えた。
俺は朝刊を手にしたまま斜面を下りた。
朝露で濡れたサンダルを工房の入り口の棕櫚の足拭きで拭い、中を覗く。
作業台で椅子の設計図を広げていた大野さんが、顔を上げてふわっと微笑んだ。
「おはよう。
随分早いね」
初めて会った日から、その笑顔は変わらない。
星空の下であの話をする前も後も。
「おはようございます。
大野さんの方こそ、今朝も早いですね。
ここんとこ根を詰め過ぎてるんじゃないですか？
櫻井さんが心配してましたよ？」
「翔くんが心配しすぎなんだよ。
俺の顔を見れば、やれ『もっと食べろ』だの『休憩しろ』とか。
まるで母ちゃんみたいなんだから」
母ちゃんというより嫁でしょ、と心の中でツッコミを入れつつ、「愛があっていいじゃないですか」と言うと、大野さんはちょっと目を丸くして「カズも二週間で随分変わったねぇ」と笑った。
そして、少ししんみりした口調で視線を落とした。
「あっという間だったな…。
いろいろ世話になったね。
ありがとう」
「俺の方こそ。
二週間ありがとうございました。
結局ロクに役に立たなくて申し訳なかったです…」
「いや、よくやってくれたよ。
頑張って御飯作ってくれたし、
納品のときは本当に助かった」
大野さんは自分には厳しいけれど、他人には寛容な人。
我ながら使えないバイトだった俺に対しても、こうして褒めてくれるのがくすぐったい。
「今晩は何時の電車だっけ？」
「八時過ぎの清里発です」
「そっか…。
じゃ、グリーンストームには六時には着くようにしたいね」
「はい。
でも、皆さん忙しいのに、なんかマジに申し訳ないですよ。
送別会って照れるし…」
そう言った俺にふふっと笑った彼は、ふと思い出したように作業台の引き出しから封筒を二つ出した。
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kotorix(プロフ) - しのぶ(改)さん» しのぶさん、拙い作品ですが、最後までお読みいただいて本当にありがとうございました。随分前に書いた物語ですが、密室トリックを考えているときは家族にだいぶ気味悪がられました(^_^;) (2019年1月6日 16時) (
レス) id: 5cfd22b9da (このIDを非表示/違反報告)
kotorix(プロフ) - りんごさん» りんごさん、一年もお返事せずに大変失礼いたしました。最後までお読みいただいて本当に嬉しいです。こちらの方こそありがとうございました(*^_^*) (2019年1月6日 16時) (レス) id: 5cfd22b9da (このIDを非表示/違反報告)
しのぶ(改)(プロフ) - 泣きました。素敵な物語をありがとうございます。 (2019年1月5日 22時) (レス) id: 3f40e942ad (このIDを非表示/違反報告)
りんご(プロフ) - 天才だと思いました。本当に、本当に面白かったです。ネット小説で、こんなにハラハラドキドキしたことはありませんでした。すごく楽しかったです。素敵な小説、ありがとう (2018年2月14日 21時) (レス) id: 31eb5fcb90 (このIDを非表示/違反報告)
kotorix(プロフ) - たけちゃんさん» たけちゃんさん、コメントとっても嬉しいです♪最後までお付き合いくださり有り難うございます！風呂敷を広げ過ぎて迷走した作品ですが、ラストシーンが頭に浮かんでからはそこに辿り着くよう目指しました。再び始まった五人の物語を思い描いてい頂けたら嬉しいです♪ (2014年9月11日 13時) (レス) id: e9eb502708 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：kotorix
| 作成日時：2013年6月2日 22時
