３８１．Side S ページ48
「…どういうこと…？」
「詳しいことはどうしても言えないって…
三上さんの件は京都地検のタブーになってるようだよ。
水嶋さんね……
俺は知らない方がいいって言うんだ……
……それが彼が俺に出せる最大のヒントってことだろうね…」
「……あの事件に関わってたってことなのかな…」
「多分ね。
でも彼の人柄からすると、俺は不可抗力だったんだろうと思ってる。
…脅されたか、騙されたか…結果的に犯人に手を貸すことになってしまったんだろうね。
ここからは俺の想像だけど……
おそらく事件後、実直な三上さんはその事実を上司に報告した……。
だが、そのとき既に検察の上層部では、あの事件を法治国家への挑戦として捉え、
『強い検察』を旗印に、徹底抗戦の方針を固めていた。
だから、それがたとえ不可抗力だったとしても、
検察内部に犯人に協力した者がいたことが明るみに出るのを防がなければいけなかった…。
都合のよいことに犯人は黙秘を保っていたから、この事実を知る者は他にいない。
それで、正直に報告した三上さんをいち早く検察から排除して、何事もなかったことにした……。
そんなとこじゃないかと思ってる…」
「………」
どんなに強固な防波堤でも、そこに生じたほんの僅かな亀裂が、重大な決壊を招く事がある。
検察はそれを怖れて三上事務官の首を切った。
彼らにとっては、身内を襲われたことよりも、それによって己の権威を傷付けられることの方が重大なことだったのだろうか。
「…馬鹿だよね、俺…。
三上さんは二年間仕事のパートナーだった。
なのに…こんなことになって初めて気付くなんて……
…あの事件の陰で検察を追われてたなんて……思ってもみなかった。
彼はね…事務官のキャリアを積んで副検事になる夢を持っていた。
それなのに―――」
「……智くんの推理が当たってるなら、三上さんもまたあの事件で犠牲になった一人ということになるね…。
でも、これはあなたのせいじゃない。
あなたは何も知らなかったんだ。
彼の選択に責任を感じる必要はないんだよ？」
俺がそう言っても、智くんは黙っていた。
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作者名：kotorix
| 作成日時：2012年5月8日 15時
