３７１．Side S ページ38
今になって京都での無謀を持ち出されるとは思ってもいなかったのだろう。
若干しゅんとして口を尖らせてる。
「ふふっ、そっか。
だったら出来るだけ痛くないようにするから、忙しくてもサボらないで続けてよ？」
「うん」
いつも無理しがちな彼への、ちょっとした牽制のつもりだったけれど、思いのほか素直な反応に、ついほくそ笑む。
右手首をシーネで固定して包帯を巻き終えた後、彼に尋ねた。
「向こうのご両親やみのりちゃんとは充分話し合えた？」
「うん。
……領をさくら荘に引き取って一緒に暮らしたいと言ったら、わかってくれた。」
「えっ？
本当に！？
許してくれたの…！？」
すんなりＯＫが出るとは思っていなかったので驚く俺に、智くんは頷いた。
「親子が一緒に暮らすのが自然だし、きっと領のためにもいいだろうって。
みのりちゃんとの話は忘れてくれと言われた」
「…そう…。
みのりちゃんはどんな様子だった？」
「そもそもこの話は、お義母さんが一人で思い描いたことで、みのりちゃんの意思じゃなかったんだ。
俺との結婚を望んでるとお義母さんに言われて、びっくりして猛抗議したそうだよ。
考えた事もなかったって」
みのりちゃんはそう言ったんだね。
でも、それは多分違う。
彼女が智くんを義兄以上の感情で見つめて来たことは明らかだ。
理不尽な死を遂げた亡き姉に対する遠慮が、彼女を踏み留まらせてきたのだろう。
みのりちゃんのお母さんは、自分の気持ちを抑えている末娘の気持ちを叶えてやりたかっただけ。
しかし、当のみのりちゃんは、智くんの弱味につけ込むような事は出来なかった。
それがきっと彼女のプライド…
智くんは、彼女の気持ちに気付いていないのか、
それとも気付かないふりをしているのか…
普段から彼がこの手の話をしたがらないところからすると、俺は後者だと確信しているんだけどね。
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作者名：kotorix
| 作成日時：2012年5月8日 15時
