３６８．素直な人 ページ35
「何でもないよ。
領は翔くんの味方だよな？」
翔さんは、眉毛を下げてそう言うと、レインコートを着たままの領を抱き上げた。
領の髪は雨で濡れていた。
「おお、結構濡れたね！
風邪引くといけないから、ちゃんと拭こうね。
それッ、急げぇ〜〜！」
領を抱いたまま勢いをつけて居間に走り出した翔さん。
腕の中の領がケラケラと明るい笑い声を立てた。
「翔くん、張り切ってんなぁ」
そう言ってクスッと笑った大野さんもまた、よく見ると半端なく濡れている。
駅から大した距離じゃないけれど、雨が強かったからな。
傘立てには領の小さな黄色い傘も立っているが、大野さんはきっと自分の傘を領に差し掛けていたのだろう、髪も服もびしょ濡れだ。
大野さんがブルッと身体を震わせたのを、俺は見逃さなかった。
「とりあえず着替えした方がいいですよ。
すぐ風呂の準備しますから、あったかくして待っててください」
「えっ？
いいよ。
自分でするから」
「なに水臭いこと言ってるんです。
いいから、さっさと着替えて来てください！
ほら、早く！」
「あ、ハイ……」
散々心配させられた腹いせじゃないよ？
大野さんに風邪を引かせたくないから強めに言ってみただけ。
すると大野さんは、いつもと違う俺に驚いた顔をしながらも、普段よりは幾分素早く動いて、素直に着替えに行ってくれた。
潤くんと違って(？)俺は別にＳじゃないんだけど、たまにはいいかも。
言いなりになってくれる大野さんが可愛くて(笑)
・
・
「領、お父さんは？」
風呂の湯が適量適温になったのを確かめて居間に戻ると、さっきまでソファにいた大野さんの姿がない。
ローテーブルで大人しくジグソーパズルをしている領は、俺の質問に顔を上げた。
「２かいにいったの。
おしごとのでんわがきたの」
「仕事？
はぁ…大変だねぇ」
キッチンで何やら始めたらしい翔さんが補足する。
「警察からだった。
呼び出しじゃなければいいんだけどね」
「そうですね…って、翔さん。
なに作ってるの？」
「ふふん。
卵酒だよ」
「へえ！
翔さん、そんなの作れるんだ！」
感心して、翔さんがかき混ぜてる鍋を覗き込んだ。
・
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作者名：kotorix
| 作成日時：2012年5月8日 15時
