３６５．安否 ページ32
『………
翔くん？
どうかしたの？
返事して…！
何があったの！？』
俺は夢中でぶら下がった受話器を握った。
「もっ、もしもしッ…！？
大野さんッ！？
大野さんなのッ！？」
必死に電話口で怒鳴ると、その人は驚いたように言ったんだ。
『ちょっ…！
カズ…？
そんなに慌てて、いったいどうしたの？
翔くんは？』
よかった……！
大野さんは無事だった――――！
事故に遭ったのは大野さんじゃないって言ってたくせに、実際に大野さんの声を聞いた途端床の上にへたり込んじゃってる翔さん。
脱力して、「はははは」と掠れた声で笑ってる。
でも、わかる。
ほっとして、俺も腰が抜けそうだったもの。
潤くんが「俺にも聞かせて」と言うので受話器を渡す。
「大野さん？
あんた、ホントに大野さんだよな…？」
電話の向こうの大野さんは、どうして俺らがこんな状態なのか当然知らない。
潤くんが護国寺駅で事故があって、あなたの傘が見つかったんだと言った。
それに対する大野さんの説明を頷きながら聞いた彼は、「なんだ、それでか」とひと事言うと、脱力したように笑った。
「まあ、ホントに無事で良かったよ。
…………うん…………うん…………わかった。
伝えるよ。
…………うん………じゃあな…」
潤くんが受話器を置いた。
すごく優しい顔だ。
俺ら三人は顔を見合わせた。
それから誰からともなく大笑いをした。
勿論、それが大野さんじゃなかったにしろ、誰かが事故に遭ったのは事実だから不謹慎なんだけど、とにかく大野さんが無事だったことが嬉しくて。
何が可笑しいとかじゃなく、ただただ腹を抱えて馬鹿笑いした。
やがて翔さんがようやく立ち上がり、笑い過ぎで出た涙を白衣の袖で拭いながら言った。
「じゃあ、俺、診察に戻るわ。
患者さんを待たせてるんだった」
「そりゃ大変だ。
頑張ってね」
大野さんが無事だとわかった今、どういう事情でこういう騒ぎになったかは、翔さんにはもうどうでもいいようだ。
「それにしても、ほんっとにお騒がせだったな」
「まったくだね。
俺、もう、どうしたらいいかわかんなくて」
「大野さんのホワホワした声を聞いたら、マジに気が抜けたよ。
電話を代わったら、『あれ？今度は潤？』なんて言ってさ。
まったく俺らの気も知らねぇで(笑)」
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作者名：kotorix
| 作成日時：2012年5月8日 15時
