３３７．やせ我慢 ページ4
「その調子だと『５』でしょ？」
翔さんが眉を顰めて言うと、大野さんは首を横に振った。
「そんなにない。
『２』ぐらい」
「また〜
嘘ばっかり」
「『５』が俺のＭＡＸなんでしょ？
だったらせいぜい『２』だよ」
「わかりにくいなぁ。
じゃあ、絶対値で教えてよ。
この前の手首の骨折の痛みが『３』だったとしたら、今は何？」
「『１』…だな」
「……もういいよ、わかった。
要は大したことないって言いたいんでしょ？
そういうのをやせ我慢って言うんだけどね」
翔さんは苦笑すると、あくまでも強がる大野さんへの不毛なヒアリングにピリオドを打って、机の上のカルテに何か書き込んだ。
大野さんは領を起こさないように、小さな声で俺に尋ねた。
「ねえ、カズ。
いま何時かな…」
「えっと…零時二分前です」
俺が棚の上の時計の針を読むと、彼は目を細めて隣りの領を見た。
「もうすぐだな…」
「えっ？
何がですか？」
「領の誕生日…。
あとちょっとで領は６歳になる」
「あっ…そうか…！」
そうだった。
先週の花見のときに聞いたんだった。
４月１５日は領の誕生日。
「お祝いしようね。
うちの枝垂桜で花見しながら。
…そのためにも少し眠ろうか」
翔さんはそう言うと、大野さんの身体を横向きにさせ、背中を擦った。
「こうするとどう？
少しは痛みが紛れるでしょ？」
「…うん…」
大野さんは、目を瞑ってされるがままになっている。
素直に従っているところを見ると、きっとそれが楽なのだろう。
黙って擦り続けること約十分…
ようやく大野さんの規則正しい寝息が聴こえて来た。
翔さんはそっと彼の背中から手を放した。
「…寝た、かな？」
「多分…」
翔さんはゆっくり立ち上がり、頷いた俺を促して廊下に出た。
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作者名：kotorix
| 作成日時：2012年5月8日 15時
