３５２．新しい一歩 ページ19
「問題児？
俺が？？？」
大野さんがビックリした顔で問い返す。
「あれ？
自覚ないの？
地検のエースなんて言われてるくせに、自分の限界越えた無理するでしょ？
次席検事は気苦労が絶えなくて、最近はとうとう育毛剤を使い始めたそうだよ」
「次席の薄毛が俺のせいだっていうの？
とんだ言いがかりだよ」
翔さんは口を尖らせた大野さんを笑いを堪えながら宥めると、「同志」こと彼の上司に電話するため、二階に上がって行った。
「何だか喉乾かない？
俺、緊張したせいか、喉カラカラ。
大野さんも何か飲もうよ」
潤くんがそう言って立ち上がると、大野さんは「先に風呂入ってきていい？」と言った。
相葉さんがニコニコしながら頷いた。
「勿論どうぞ。
お背中流しましょうか？」
「ふふっ。
今日はいいよ(笑)」
「じゃ、待ってるね。
のぼせないようにね」
二階の自室から着替えを取ってきた大野さんが浴室に消えると、居間に残った相葉さん、潤くん、そして俺は、ほっとした顔を見合わせた。
「大野さんの気持ちが固まってよかったよ。
散々悩んでたからな」
「カズはなかなか良いこと言ったね。
選んだ道がベストになるように…って」
「えっ？
そ、そう？？？」
「俺は言えねえわ。照れちゃって。
カズは国語教師だからかね。
何だかんだ、口が巧いよね」
「く、口が巧いって！！
人を詐欺師みたいに言うなや！」
「何で怒るの？？？
褒めてるのに」
「それって褒めてないから！！！」
相葉さんとの疲れる会話に脱力していると、二階から翔さんが下りて来た。
大野さんの上司の次席検事との話の内容は、彼の穏やかな笑顔を見れば聞くまでもないようだ。
「喜んでたよ。
辞表は破られました…って、何かと似た台詞だな(笑)」
大野さんが領を引き取るには、まだまだ問題が山積だ。
でも男が五人集まって本気になれば、大抵のことが出来るような気がする。
「じゃあ、五人の結束を誓って乾杯する？」
翔さんの提案にみんなが頷く。
「いいねえ！
リーダー、早く風呂から出て来ないかな」
「たった今、入ったばっかりじゃん(笑)」
「簡単なつまみでも作るか」
「さすがは潤♪」
明日は土曜日。
領が来る日だ。
俺は、領を含めた六人の生活に向けた第一歩を踏み出したことを感じていた。
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作者名：kotorix
| 作成日時：2012年5月8日 15時
