３５１．問題児？ ページ18
翔さんは立ち上がると、「それじゃ早速同志に連絡しなきゃ」と言ってニカッと白い歯を見せた。
大野さんが涙目で翔さんを見上げる。
「同志？
次席のこと？」
「うん。
今頃、俺の連絡を首を長くして待ってる」
翔さんはそう言うと、自分のシャツの袖で大野さんの目元の涙をそっと拭いた。
「でもさ…
辞表はもう検事正に回ってるはずだよ？」
「次席検事さんね、あなたの辞表を一応は預かったけれど、
はなから受理するつもりなんかまったくないから、引き出しに入れっぱなし。
検事正はこのこと何も知らないから」
「えっ！？
そうなの？
……やっぱりタヌキ親父だ…」
「ハハハッ。
でもね、あなたのことを真剣に考えてくれてるよ？
特に領のことは心のケアを含めて、絶対に疎かにしちゃいけないと思ってる。
あなたが刑事部にこだわらないのなら、
時間に融通の利く他の部署への配置換えか、他機関への出向を検討したいそうだよ。
子育てが一段落したら、また刑事部に戻ればいいと言って」
「……そっか…
次席がそんなことを…」
潤くんが尋ねる。
「検事っていうと検察庁にいるイメージだけど、他の職場もあるの？」
「うん。
政府機関や国際機関で働く検事も意外と多いんだ。
法務省は勿論だけど、衆議院や各省庁にも検事が出向してる」
「へえ…意外だな。
でもそれだけ選択肢があるのはいいね。
大野さんは、辞表を出す前にそっちに異動することは考えなかったの？」
「…考えなかった。
検察は慢性的な検事不足がたたって、配置が大変なんだ。
だから異動の希望はおよそ通らない役所なんだよ。
そういう前例を作らないというのはよく知られた話だし、
希望を出しても保留されて時間を食うだけだと思ってた」
「二年前の事件は個人的な事件じゃない。
前例には当たらないという判断だったんだろうね」
相葉さんが不思議そうな顔をした。
「それにしてもさ、その次席検事さん、なんだってリーダーに直接言わないで翔ちゃんに言うわけ？
おかしくね？？？」
すると翔さんが苦笑した。
「まあいいじゃん。
きっと智くんがおっかない顔してたんでしょ。
相当頑固だし」
「俺は普通に辞表を提出しただけだよ」
「問題児のあなたが辞表を提出するってこと自体、普通じゃないでしょ。
ドキッとしたはずだよ」
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作者名：kotorix
| 作成日時：2012年5月8日 15時
