桜の木のある家で (ページ44)

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４４．疲れてますページ44

月曜の朝は見掛けたが、その日は結局大野さんは泊まりになって帰って来なかった。
その翌日の火曜日、翔さん曰く、俺が出勤している間に着替えをしに戻ったそうだが、その日も泊まりで戻ってこなかった。

木曜日、つまり昨日の朝、久しぶりに会ったが、本当に疲れ切っている感じ。
「どうにか山場を越えた」と微笑んだ彼の目の下には、クマがしっかりと刻まれていて。
食欲もまったくないと言っていたが、翔さんと話していたプルーンジャムを用意していたので、ヨーグルトに入れるよう勧めてみた。

「せっかくだから、いただこうかな」

大野さんはそう言って、頑張って食べてくれた。
バナナは食べられず。
コーヒーを飲んだら胃が痛んだみたいで、二、三口でカップを置いた。

「働き過ぎじゃないですか？」

そう言った俺に、「今晩は帰れるし、週末も休めるから大丈夫」と笑って答え、やはり重そうな風呂敷包みを抱えて出勤していった。
何となく、ヨタヨタしていたような。
そんな大野さんを見て、翔さんも苦り切った顔をしていたが、最終的には「まあ仕方ないね」と諦めたように呟いた。

その日の夜、日付はもう金曜に変わっていたが、大野さんは確かに帰っては来たようだ。
でも、今朝、俺が起きた時には、彼は既に出勤した後だった。

〔行ってきます〕

ダイニングテーブルの上に、そう書いたメモが残されていた。
急いで書いたような走り書きだが、文字の綺麗さに驚く。
これは書道をやっていた人の字。
サラブレッドの水彩画といい、この文字といい、大野智という人の多才ぶりに驚く。
相葉さんが前に、大野さんのことを「恐ろしいくらい何でも出来る人」と言っていたのを思い出す。

それにしても、まだ六時だというのにもう出勤か。
大野さんはどんだけ忙しい職場で働いてるんだろう。

六時半すぎに起きてきた翔さんも知らなかったようで、「何かあったのかな」と顔を曇らせた。

そして―――

土曜日に日付が変わる頃、風呂から上がった俺が居間に戻ると、灯りを落とした薄暗い台所に大野さんの後ろ姿があった。
流しで水を飲んでいたようだ。

「大野さん？
　おかえりなさい」

そう声を掛けると、彼はゆっくり振り向いた。
どうも様子がおかしい。
側に寄ってみて驚いた。

流し台に寄りかかった彼の顔は、夜目にもわかるぐらい顔色が悪かった。

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