３３．ふうん ページ33
「ありがとう」
首に付いた髪の毛をブラシで払ってもらった領は、そう言って椅子からぴょんと飛び降りた。
まっすぐにカウチソファの大野さんの元へ行き、「かっこよくなった」と褒められて照れくさそう。
「じゅんくんがくれた」と赤いミニカーを大野さんに嬉しそうに見せて、日だまりの廊下の上を走らせてる。
「次は翔さん」
潤くんは領の後、翔さん、俺、大野さんの順に髪を切ってくれた。
俺は仕事柄あんまり斬新には出来ないんだけど、さすがカリスマ、前よりずっとオシャレな感じになった。
毎月切ってもらっているという翔さんと大野さんは、伸びた分だけ切ってもらった感じ。
潤くんはこうして毎月一回、日曜日にみんなの散髪をしてくれるそうで、何とタダだという。
「『家族』からお金とれないでしょ」
恐縮する俺に、潤くんが言った。
カッコ良すぎるよ、潤くん。
・
・
潤くんは、午後から雑誌の仕事が入ってるとかで、昼頃に出掛けて行った。
出掛ける前に、領のおやつも用意していった彼。
俺と同い年だというのに、はるかに大人なような気がする。
華やかな世界で生きる彼だけど、その中身は堅実で温かい。
俺はと言えば、領と一緒に折り紙をしたり、穏やかな時間が過ぎていった。
やがて陽が傾き始めると、領はやたらと大野さんにくっつき始めた。
翔さんが「帰る前はいつもこうなんだよ」と教えてくれた。
五時を過ぎた頃、昨日相葉さんから聞いていたとおり、領を迎えに来た人がいた。
若くてとても綺麗なその人は、領のお母さんの妹。
領を見送るために翔さんと一緒に玄関にやってきた俺。
挨拶をすると、明るく微笑んで「領の叔母の樋山みのりです」と名乗った。
領は父親である大野さんにそっくりだと思っていたが、みのりちゃんは母の妹というだけあって、領とどことなく似ている。
医院の玄関から先へ上がろうともしない彼女だが、領にリュックを背負わせる大野さんを見つめる大きな瞳に華やいだものが見えた。
ひと目でわかった。
彼女は大野さんが好き。
一方の大野さんは……
気付いてないね。
俺は結構こういうのわかっちゃうんです。
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1351人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：kotorix
| 作成日時：2012年1月29日 11時
