４．院長 ページ4
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一人残された俺は、ダイニングテーブルの端の席に座った。
部屋を見回すと、何だかすべてが昭和って感じ。
沢山の食器が収納されている食器棚、ガラス戸のついた書棚。
このテーブルや椅子も含め、長いこと使い込まれた年代物ってわかる。
壁に掛けられた風景画も、今じゃ流行らないようなクラシックな額縁に納められている。
二階へ続く、ちょっと急な階段…
初めての場所なのに、なんだか懐かしい。
やがて例の彼が戻って来た。
俺ににっこり微笑んで会釈をし、そのまま二階に上がって行った。
あの人はここの下宿人だろうか。
ずいぶん若く見えるけど、話し方が大人な感じで、立ち居振る舞いも落ち着いていた。
多分、俺と同じくらいかな。
綺麗なんだけど、笑うとやけに可愛らしい。
採用されたらこれから毎日会えるのか。
って、俺、野郎相手に、何を喜んでるんだ？？？
一人突っ込みをしていると、後ろのドアが開いて、白衣の男が入って来た。
「賄い人に応募してくれたのって、きみ？
僕が募集した院長の櫻井翔です」
へえ…
これまた綺麗な顔立ちのセンセだこと。
色白で優しい顔立ちだが、大きな二重の双眸が意志の強さを象徴している。
こんなレトロな医院の院長なんだから、正直言って、無精髭生やしたおっさんかおじいちゃん先生を勝手にイメージしていたけど、目の前の院長は、さっきのパーカーの彼とはまた違ったタイプの爽やか系知的イケメンだった。
「あ、はじめまして。
二宮和也です」
俺は立ち上がって、さっきファミレスに寄って急いで書いた履歴書を彼に差し出した。
院長は俺の顔をじっと見つめてそれを受け取ると、席につくよう言い、自分も向かい側の椅子に腰を下ろした。
「へえ…
Ｓ予備校の講師なんだ」
彼は履歴書に目を通すと、意外そうに俺を見た。
「ウチは朝と晩のご飯をお願いしたいんだよね。
予備校の先生しながら、晩ご飯の支度は無理だと思うのだけれど」
俺は慌てて言った。
「大丈夫です！
僕の担当校舎、すぐ隣り駅の駅前なんで。
仕事はたいてい午後からですから、午前中に下準備して、
夕方講義が始まる前に一旦に戻って来て、ちゃちゃっと作ります！」
採用されれば家賃も食費もタダ…
こんないい条件、見たことない。
逃してなるものか。
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作者名：kotorix
| 作成日時：2012年1月29日 11時
