２６．甘い ページ26
領はまだパジャマ姿だった。
既に暖房が入っていて、十分な暖かさだけど、裸足だし、着替えた方がいいだろう。
「着替え、持ってきたら？」
そう言うと、領は頷いて立ち上がった。
丁度そのとき、廊下側のドアが開いて潤くんが入ってきた。
「おっ？
カズ、早いじゃん」
そういう潤くんこそ、こんな朝早くから買い物してきたようで、ラフな格好ながらしっかり着込んで、コンビニの袋を手に提げている。
「おはよう。
買い物？」
「ああ。
バター切らしてたから」
そうか。
確か昨日、領にホットケーキ作ってやるって言ってたっけ。
「領、ただいま♪」
潤くんは、領の前にしゃがんで、「お土産」と言ってコンビニの袋から小さな筒型のプラスチックケースを取り出した。
領は「ありがとう」と言ってそれを受け取ると、それをじっと見て「これ、なあに」と尋ねた。
「これはだなぁ…」
潤くんは、領からケースを受け取ると、蓋を開け、中から小さな赤いミニカーを取り出した。
「くるまだ」
ぽやっとした声で呟いた領に、潤くんは得意気に言う。
「ただの車じゃないよ？
こうしてこうすると…」
床の上でミニカーをちょっと後ろに引いてから手を離すと、ゼンマイの力でピューンと前に走っていった。
「わあ！」
慌てて追い掛ける領。
それを見てる潤くんは嬉しそう。
「缶コーヒー買おうと思ったら、『チョロQ』もどきのオマケがついててさ。
赤いの探すの大変だった」
青山に店を構えるイケメンの「カリスマヘアスタイリスト(なげぇ…笑)」。
その彼が一生懸命コンビニで「赤い車」のオマケを探してる図を想像して、吹き出しそうになった。
潤くんのデレっぷりも相当だ。
領はすぐにコツを覚えて、何度もミニカーを走らせては、転がるように追い掛けてる。
何だか子猫がネズミを追っ掛けてるようだ(笑)
「領、着替えを持ってくるんだろ？」
俺がそう言うと、領はハッとした顔になって「はぁい」と言い、ミニカーを大事そうに持ったまま、二階に駆け上がって行った。
その後ろ姿が見えなくなるまで潤くんと二人で微笑みながら眺めていたのに気付いた俺。
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作者名：kotorix
| 作成日時：2012年1月29日 11時
