１３．新生活 ページ13
大野さんが領に小さな青いリュックサックを背負わせた。
半ズボンから出てるまっすぐの細い足と膝小僧がめちゃくちゃ可愛い。
領ともっと仲良くなりたくて、「何が入ってるの？」とリュックの中身を聞いてみる。
「きがえとおやつ」
なるほど。
一番下の弟の小さい頃を思い出した。
共働きで忙しい両親に替わって、保育園から帰った後は何処へ行くにも連れて歩いていたのだが、目を離すと泥だらけになってたり、ずぶ濡れになってたり。
風邪を引かせたらマズいから、友達に気を遣いながら家に着替えに戻ってたっけ。
当時は俺自身が幼かったせいか、着替えを持ち歩くところまで気が回らなかったが、こうして持ち歩けばよかったんだと気付く。今更だけど。
「それじゃ、行ってきます。
出掛けるときは、戸締まりよろしくね」
翔さんと大野さんは、真ん中に領を挟んで出掛けて行った。
門の外まで見送った俺。
それにしても無警戒だね。
医院の鍵を初対面の俺に預けて、にこにこ出掛けて行っちゃった。
俺がもしかしたら悪い奴で、ウチの中のもの盗んで逃げちゃったらとか思わないのかね。
ふうっと溜め息をついて、ポケットから五号室の鍵を出す。
どれ、俺の新居を見て来るか。
黒光りしてる急な階段を上がった先には、思ったより幅の広い廊下。
その両側に個室が並んでいる。
ドアに掛けられた真鍮のプレートに室番号が振られている。
一番手前が俺の五号室。
鍵を開けて中を覗く。
「おお♪」
さすが昭和の建物。
結構広い！
っていうか、今までのアパートの俺の部屋が六畳だったから、確実に広い。
八畳ほどの洋間で、天井までの一間幅の大きな物入れがある。
格子窓の出窓、作り付けの本棚と机とベッド。
いいじゃん。
確かに何もかも古いけど、こういうのには神経質じゃないから、気にならない。
俺は物入れや本棚にわずかな荷物を片付け、階下に降りると、週明けから第二の「職場」となる台所に入った。
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作者名：kotorix
| 作成日時：2012年1月29日 11時
