移りゆく季節とともに番外編２／完結 (ページ33)

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「また寄って下さいね」

「有り難うございます。
　ご馳走様でした」

大将に見送られて小料理屋を出た後、病院へ続く坂道を、二人並んでゆっくり歩く。

足を止め、隣りを歩いていた智くんに向き直る。

「…また…会える…？」

少し緊張した声で俺が問うと、パジャマ姿の智くんは少し首を傾げて、くすっと笑った。

「初めてのデートの後みたいな台詞だね」

確かに。

実際、殆どその心境だ。
会いたくてたまらなかった人。
「次」があるのとないのでは、大違いだ。

いつでも会えるよ

そのひと言を期待していた俺に、智くんは静かに首を横に振った。

「……もう、会えないんだね…」

俺は落胆を隠せなかった。

「…どこかへ…行っちゃうの…？」

「どこにも行かない。
　ずっと見守ってる」

「それなのに会えないの？
　側にいてくれるんでしょ？
　どうして…？」

未練がましい俺に、彼は諭すように言った。

「翔くんには前を向いていてほしいから。
　いつまでもおいらの所に留まってたらいけないんだよ」

俺の依存はさらりと切り捨てられた。
彼は呆然としている俺を、切ない目で促す。

「…寒いでしょ？
　風邪引く前に戻ろう」

先を行く小さな猫背。
一足進める度に、別れの瞬間が近付く。

彼は何処へ帰っていくのだろう。
たった一人で寂しくはないのだろうか。
怖くないのだろうか。

暗がりに浮かび上がる儚げな後ろ姿が痛々しくて、俺は口に出して聞けなかった。

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