７５． ページ25
「そう言えば、そうだよね。
もっとも、智くんの夢の中の俺は、あんまりいい印象じゃないみたいだけど」
「ふふっ、そんなことないよ。
いい夢も見てるけど、言わなかっただけ」
「えっ！？
そうなの！？
いいヤツも教えてくれたらいいのに」
「いいことは心の中に仕舞っておくんだよ、おいらは」
その言葉に何となくほっこりと嬉しくなる俺は、我ながら相当単純なヤツだ。
「今回はね…」
智くんが切り出した。
「どうにか目を覚ませないかって頑張ってみたんだ。
でもやっぱり無理だった」
「頑張った…？」
「うん。
翔くん、前のままのおいらと話したかったんでしょ？
だから、何とか『魂』と『身体』をまた合体出来ないかって思ったんだけど」
「『魂』と『身体』…」
「そう。
あの日…『５×１０』のレコーディングの後、俺、もう限界でさ。
気が遠くなった後、気付いたら、『魂』と『身体』が完全に分離しちゃってたんだ」
「……」
「『身体』に戻ろうとしても駄目で。
『魂』と『身体』の間の紐みたいなヤツが切れてたから」
「……何だかすごい話だね」
「そうなんだよ。
今回、それを何とか出来ないかってチャレンジしたんだけどね」
「でもちょっと動いてたんだよ？
左手の指が、こんなふうに」
「あの時はね、高熱出たりして、『身体』のガードが一瞬緩くなったの。
でも、『やった、戻れた』って思った次の瞬間、弾き返されちゃった」
「自分の『身体』なのに拒否されちゃったんだ」
「ふふっ、まさにそれだね。
おいらが戻ると、体力以上のことさせるから。
……はやく楽になりたいんだろうね、俺の『身体くん』は」
そこまでの思いをして頑張っていたのかと思うと、胸が痛くなった。
「……智くんの『身体』…
普通よりずっとずっと頑張ってくれたよ。
褒めてあげなきゃ」
「そうだね」
「…で、今のこの状態ってどういう状態なの？
やっぱり夢？」
「夢じゃないよ。
翔くんの頭の中に、ちょこっとお邪魔してるんだよ」
「えっ…？
それって…」
「まあ、いいじゃん。
それより着いたよ」
俺の質問を打ち切った彼は、一件の小料理屋の前で足を止めた。
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作者名：kotorix
| 作成日時：2012年1月15日 17時
