移りゆく季節とともに番外編２／完結 (ページ16)

今日:7 hit、昨日:3 hit、合計:301,791 hit

６６．ページ16

相葉くんが指差したのは、智くんの右目。
目尻の涙が、水晶の粒のように光っていた。

医師に言わせれば、これも生理的な反射なのだろうか。
でも俺にはそう思えない。

「智くん…
　さっき、動いたでしょ…？
　俺、ちゃんと見てたよ」
　

俺は智くんに話しかけながら、人差し指でそれをそっと拭い取った。

相葉くんが言った。

「…翔ちゃん、先生が言ってたこと、俺、難しくてあんまりわかなんなかったけど、
　リーダーの脳には、起きている時みたいな脳波が出てるの？」

「…そうらしい」

「じゃ…
　反応は出来なくても、俺たちの声が聴こえてるかもしれないの…？」

「…俺はずっとそう思ってきた。
　前に先生が言ってたんだ。
　本当に珍しいケースだけれど、大野さんの脳波は、
　起きてリラックスしている時と似てるって。
　それを聞いてから、俺はこの人には全部聴こえてるんだ、
　全部感じてるんだって思って接して来た」

「…そうだったの…。
　リーダー、いま聴こえてるの…？
　苦しいの…？
　……俺たちの前からいなくならないで…」

相葉くんが智くんに話し掛けながら、頭を優しく撫でている。

相葉くんの言うとおりだ。
目を覚ましてほしいなんて贅沢、いま言うべきことじゃない。

いま願うべきことはただ一つ。

・

生きてくれ。

どうか、いなくならないで。

あなたが生きていることの方が大切なんだ。

逝かないでくれ――――

・

俺は思いを込めて、熱を帯びている彼の手を握り直した。

・