６４． ページ14
やがて、既に顔なじみになっている智くんの主治医が談話室に入って来た。
立ち上がって迎える俺らに、「どうぞお掛けください」と座るように勧め、自分も向かい側に腰を下ろした。
「あの…リーダ…
大野の具合はどうですか」
相葉くんが緊張しながら尋ねる。
「昨日から発熱がありまして、昨晩遅くには三十八度以上になりました。
寝たきり状態が長く続き免疫力が低下していますので、
日和見感染症の疑いがあります。
抗生物質を投与していますが、血圧がかなり低下してきており、危険な状態です」
「……苦しんでいるんですか…？」
俺が問うと医師は頷いた。
「深い昏睡状態とはいえ、発熱は体力を消耗しますので、やはりつらいと思います。
大野さんのご意志で延命処置はしない方針ですが、
解熱の処置は苦痛を取り除く緩和ケアの一環として行っています」
昏睡に陥って、すべての苦痛から解放されたはずだったのに。
今また穏やかな眠りが妨げられているのかと思うと、彼に与えられる果てしない試練に胸が痛む。
しかし、同時に、このことが彼に何らかの変化を齎したのではないかとの思いが過る。
俺は医師に尋ねた。
「これが刺激になって、意識が戻っているということはありませんか？」
「意識の回復、ですか？
……それは残念ながら…」
「…先生、僕はさっき見たんです。
大野の左手の指が動いていたんです」
「そうだったんですか」
医師が驚きもせず、妙に落ち着いているのが俺の気持ちを萎えさせていく。
動いてたんですか
それはすごい
意識が戻りつつある証拠です
そんな反応を期待していたのに。
「深い昏睡といえども、最も単純な脊髄反射は維持されています。
おそらく、処置の刺激で、脳が意識する前に脊髄が折り返して反応し、
筋肉が収縮したのでしょう。
大変残念ですが、全身状態からしますと、意識回復の可能性は殆どないと思われます」
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 252人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：kotorix
| 作成日時：2012年1月15日 17時
